日記一覧
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262.備忘録
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150 :
宗-三-左-文-字
01/03(火) 03:06
「寂しがり屋なんだねぇ」
新年の祝宴で、ふいにそう言われた。
寂しがり。僕が? 一体何を思ってそんな事。
「ぼくもそうだから、分かるんだよ」
――好い加減なことを。
「まあ、まあ。騙されたと思って、どうだい、一つ。縛られてみない?」
――謹んでお断り申し上げます。
漸く自由に羽ばたく事を許されたのに、今更、何を好き好んで縛られる事があるのか。
貴方の様な変態嗜好では無いんですよと眉を吊り上げるのに、彼は一向に引かない。
うっすらと透けて見える縄を服の上からなぞって、更に言葉を続けてきた。
「飛び回るのは、安心出来る巣を探してるからだろう? ぼくたちは刀だ。主人を求め、所有される事を願う。自由な刀はそのまま錆びて朽ちるだけ。ご主人様に愛されている、その証拠が安心になるんだ」
「この縄は、自ら結ったものだけど。これを握る事でぼくの全てはご主人様のものになる。ぼくは自由にしていても不自由で、だから寂しくないんだ。本当は、ご主人様手ずから縛って欲しいんだけど」
「ご主人様に縛られ、愛でられ、執着される。一体それの、何が不満なんだい? それこそ至上の喜びだろうに」
――僕の主人はただ一人。歴史の荒波に呑まれて死にました。それで結構ですか。
「貞淑な刀だ。可哀想なくらいだよ」
――貴方、こんなしつこいタチでしたっけ?
「どうだったかな」
席を立てば、それ以上彼は追って来なかった。
取り敢えず適当に顔なじみの傍に腰を下ろして次々杯を干していると、流石に見咎められて、酒を取り上げられてしまった。
――のみたい気分なんですけどね。
「別嬪さんには俺も飲んで欲しいんだけどね。ちょっとインターバル。な?」
――はあ。
全く、伊達の刀は目が敏くていけない。
気遣わしげに笑いかけてくる短刀に宥められながら食べる肴が、これまた美味しいのが腹が立つ。
「どうせならさ」
――なんです?
「物憂げな美人も結構だけど、からっと笑ってる方が幸せそうでいいなーって思うよ、俺」
――まったく、よく舌の回ることで。
「自分の幸せを追って、悪い事って無いと思うぜ」
――考えて置きますよ。僕はこれで、結構幸せなつもりなんですけどね。
そう。
幸せなはずだ。
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