日記一覧
297.瑠璃雨月
 ┗13

13 :三_日_月_宗_近
08/07(金) 13:37

         求  ノ  と は  



俺が我が主の本丸に舞い降りたは数週間ほど前のこと。
人の姿となり、人に仕えて、浮世を見通す日が来ようとは…長く在ればおもしろきことも起こりうるものだな。
やれ出陣、やれ馬番と慌ただしき日々ではあるが、天_下_五_剣と祀られ刀としての本分を振るえぬ日々に比ぶれば、何とも退屈のない日々だ。

そんな目新しき日々の中で、これもまた目新しき視線に気付いた。
隣の本丸より時折感じる其れは、恐らく俺が気付いていることなど気付いてはおらぬのだろう。
鳥の囀る声に視線を上げる振りをし其方を伺えば、さっと隠れる真綿のような白き袖。
隣の本丸の隊長を担う同派の小_狐を捕まえ聞き出せば、鶴の一文字を持つ名刀の名が紡がれた。
小_狐曰く、白い鶴は俺に逢いたがっているらしい。
ははっ、これはよいことを聞いたぞ。
余りに愛らしい故、少しだけ小_狐_丸に静観を願い、その挙動を伺いながら縁側で過ごすのが俺の最近の日課だ。
人というものは焦れたら焦れただけ、幸せや喜びも一入なのだろう?
あとは俺自身が何処まで我慢が効くかが問題だな、ははは。


+ + + +


最近小_狐と鳴_狐は少々気持ちの上での擦れ違いが多いようだ。
相手を思う余り、臆病にも不安にもなり、考え過ぎてしまうきらいが見える。
人も刀もどんなに求め合おうとも一個体。相手の全てを把握し、完全に理解することは不可能だ。
厄介なことに、想いが強ければ強いほど、擦れ違う情もあるらしい。
しかし、「分かってやること」よりも「分かろうとすること」が大事なのだと、我が主は言う。
狐同士の色恋は濃いようでまだ短い。
千年を超える一振りの記憶を思えば、瞬き程の時間だ。
急かすも迷うもなく淡々と流れゆく時間の中で、相手を思い本心を隠さず真摯に向き合うことは、人が互いを理解し信頼を得る上で、必要不可欠なことなのだろう。
其れをしようと手を取り合うあの二人ならば或は、俺が見たことのない「永遠と呼べるもの」を見ることが叶うのではないか、と。
……あなや、爺の長話は退屈か?はっはっ、すまぬなぁ。

俺もそのような身を焼く恋をするのだろうか。想像が付かぬ。
あわよくば、その相手があの愛い白鶴であれば…と、ははは、戯言だ。聞き流せ。


+ + + +



狐たちは"花火"というものを見に出掛けているそうだ。よきかなよきかな。
本丸の庭からも見えまいか。少し興味深い。

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