夏とは思えぬ冷えた潮風に当りながらまばらに人々が泳ぐ海を見た。今年に入って何度目の海になるだろうか。ぼやけて滲む水平線を見つめながら冷えた砂浜を踏みしめ歩く。
ふと思い出したのは彼奴が海を羨んでいた言葉。
そういえば彼奴は結局今年の夏海へは行けなかったのだと、そう思い出した。
来年は彼奴と二人で見に行こう。そこで二人でかき氷を食べよう。勿論練乳はたっぷりで。
暑くて垂れながらもきっと笑ってくれる。
ふとした日常に、誰かの思い出の面影がある事に幸せを覚える日々。思い出しただけで、名前を呼んだだけで、ただの一言言葉を貰えただけで心が温かくなる。
これから秋も、冬も…彼奴と過ごしたら一年全てが彼奴との日々に塗り替わっていくのだろう。
幸せが満ちて行く。
思い出したら彼奴の声が聞きたくなった。
帰ったら一番に彼奴を思いっきり抱き締めよう。潮風で冷えてしまった身体に彼奴の温もりを分けてもらう。