日記一覧
┗
494.犬に関する覚書。
┗3
3 :
へ_し_切_長_谷_部
09/05(土) 15:59
鏡を覗けば美しく精悍な顔を拝めるというのに、何故か俺を瞳に据えて格好良いと笑う。美的感覚は人それぞれというように、刀それぞれでもあるんだろう。
それににこりともしない俺は礼を言う事もない。主のために敵を屠れるのであれば、見目など気にしない。格好悪かろうが何だろうが、刀として働くまで。
そんな俺に飽きもせず格好良いと、心底そう思っているかのように言葉を捧げ、恋情というらしい柔い感情を白い顔に映すあれの心が、俺には分からん。
_____
正直、最初の頃の記憶は曖昧だ。主の事ばかり考えていた気がする。
傍に居たい、といったような事を言われた時、本当は断りたかった。
俺を好きだと囁く声が、甘やかな響きではなく悲鳴を隠して哀を滲ませる今後が、見えた気がしたから。恋を理解出来ん俺は、無自覚にあれの恋で満たした心とやらを弄び、踏みにじり、痛みの涙に恋情を溶かす未来を、作り出さんという自信がなかった。いくら無愛想で無神経な俺でも、優しいあれにそんな思いをさせたくなかった。それを口に出せず、お前が望むのならと言った俺は、秀麗な顔が傷付いたように歪む度に、やはり突き放せばよかったと思う。そうしなかったのはきっと、その時からあれが俺の中に居場所を作っていて、手放したくなかったからなんだろう。
今でも犬は尻尾を振り、多分に甘さを含んだ声で俺を呼んでいる。
決していい対応はしていない俺の腕に身を任せる犬は、本当に趣味が悪い。……だが、どうやら相性はいいようだ。
[
削除][
編集]
[
戻る][
設定][
Admin]