日記一覧
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650.喫煙所
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112 :
大/倶/利/伽/羅
01/06(水) 22:31
※現代、背後透過注意
その日、俺は台所で洗い物をしていた。朝から溜め込んでいた事もあってなかなかの量が積まれていたそこを、冬水ですっかり悴んだ手で片付けて行く。
ふと思い立ち、棚からマグカップを取り出したのは、片付けが半分ほど済んでからだった。湯をカップに溜め、茶葉を入れたインフューザーを放り込む。幾許もしない内に漂う芳香に、頃合いだろうと茶葉を引き上げ、口を付けた。
茶葉には、南国の果物や花が含まれていた。今の時期には余りにもそぐわない香りが、俺はそれでも気に入っている。
シンクの傍に置いたスマートフォンは先程から反応は無い。きっと光/忠はまだ眠っている。
「楽園」という名前の付いた紅茶を飲みながら、奴と逢っていた数刻前の事を思い出していた。
依存しているのかも知れないと言う自覚はある。
でも、それでもいい。俺はあいつの傍にいたかった。
出陣が終わり、持たされた端末を見遣ると、真っ先に入って来るのはあいつからのメッセージ。普段と変わりない、いつもの事だ。ただ唯一違っていたのは、その内容がいつもとは違う、切羽詰まった物だった事。
いてもたってもいられず、身支度を整えれば直ぐさま馬に飛び乗り、向かうのは普段と違う方向。光/忠のいる場所。
光/忠の部屋に繋がる扉を開け、真っ先に感じたのは噎せ返りそうになるほどの強い煙のかおりと、熱。やり過ぎだと思われる位に入れられた暖房に、奴の心情を垣間見る。
光/忠は俺の事を「優しい」と言うが、俺は、あいつの方が余程「優しい」と思っている。…俺は、ただ傍にいただけ。うちのめされたあいつと、一晩寝床を共にして、付き合ってやっただけだ。…俺のような人間でも、悲しみに耐えるには、屹度一人より、二人の方が、幾分かマシだろうから。
ぼろぼろと流れる涙を拭い、抱き寄せてやった時の肩の震えを、俺は忘れない。
強くなりたい。何があっても凛としていられるような、美しい、強いものになりたい。
光/忠に今後訪れるであろう苦難や悲しみに、寄り添い、頼られる事が出来るように。
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