努々忘れてくれるなと、釘を刺された。連ねた文を、逢瀬を重ねた日々を、褥の残り香、感じた体温を、と。繋いだ手を離さないでくれと、縋ったのはさてどちらだっただろうな?随分女々しくなったものだ、戦うための道具が聞いて呆れる。戦場で出来る筈もない背中の爪痕、首筋の咬み跡、鎖骨の鬱血。そんな物に塗れた日々は陽の下に晒されるべきではないというのに。どうしてそんな物に現を抜かす必要が?悶々と考え込んでも、彼奴の問いへの答えは一向に浮かばない。
筆を置いて、消そうとした灯りに照らされた彼奴の頬には涙の跡が残っていた。心に残るのは不甲斐なさ、口内に残るのは錆びた鉄の味。 これがどういうことなのか、俺には未だ理解出来そうにない。
「愛してくれている?」