日記一覧
70.滅紫の黎明
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30 :へ/し/切/長/谷/部
07/07(火) 01:12


射し込む光は眩しく、目蓋を照らす。未だ霞んだままの眼を擦りながら隣にあった筈の温もりを求める様に腕を伸ばすと、そこは蛻の殻だった。代わりに何処からか優しい出汁の香りが漂い、鼻腔を擽る。

小気味良く俎板を叩く包丁の音が響く厨に足を踏み入れると、食卓には盆が置かれ、料理が並べられていた。湯気が立ち上る黄金色の出汁から取られた味噌汁の椀、小鉢には瑞々しく青い香りが残る胡瓜の浅漬け、隣に品良く並べられた水茄子の糠漬け。色艶の良いそれは恐らく昨晩に漬けられたのだろう、よく漬かっている。茶碗によそわれた白米は艶々と輝いており、噛み締めると仄かに甘味があるに違いない。その隣には夏らしく青々とした南天の葉で飾られた鮎の姿焼き。

視線に気付いたかのように音は止まり、振り向いた彼奴は薄く笑って、白魚の様な指先で胡瓜の浅漬けを一欠片摘まみ俺の唇に押し当てた。少しだけ唇を開いて口内に招き入れると、広がった味は少し塩辛い、だが白米の共には良い塩梅だった。そんな俺を見て、初めて彼奴は唇で言葉を象る様に、昨晩の余韻が残る掠れた声で音を紡いだ。


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