*xx.9.1
暫く開くことすらしなかった日記には薄く埃が積もっていた。消えてしまった宛先、もう届くことのない玉梓。
青々とした枝を携えて歩いた、記憶の中のその道の先には確かに各々の色をした花が辺り一面に咲き誇っていたはずだったのに。その見渡す限りの花畑の中で、よく来たと笑いかける姿が確かにそこにあったはずなのに。今では暈けた輪郭すらそこには無く、忽然と姿を消していた。
未だ微かに人の温もりを思わせるその場所から、花を一輪ずつ拝借して栞を作った。驚く程に、色んな栞が出来上がった。これを見たら、笑ってくれるだろうか。小花を思わせる模様は一つずつ、懐かしむように宛てた言葉を指先でなぞりながら挟んでいった栞だ。……記憶力だけは良いんだ、ずっと忘れてはやらないさ。幸い墨はまだ残っている。俺は此処で、言の葉を綴り続けることにしよう。