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89.モトカレはせべ
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111 :
燭_台_切_光_忠
06/09(木) 20:01
#「なあ、光_忠。ヒトが求めているのは、耳触りのいい言葉を言ってくれたり、自分に踏み込んできてくれる奴、なんだろうか」
「え。なに、急に?」
まあ、そりゃあそうだろう。
僕だって、耳触りのいい言葉を並べられれば、それなりに気分はよくなるし、黙っていても恋文を届けてくれる子なんて、大抵の子が欲しがるはずだ。
みんな必要とされていたいし、みんな愛されていたいに決まってる。しあわせになりたくて当然だ。
けれど、……いや、だからこそ、一片の澱みもなく、打算的にならずに、うつくしい愛だけで向き合える関係なんて、たぶん、存在しないと思う。
打算とは、損得勘定で行動することらしい。じゃあ、なにからが損で、なにからが得になるんだ?自分に都合がよければ、得?自分の意に沿わなければ、損?……哲学的な話になってきてしまう。
僕は、人並みに誰かを好きになったり、恋をしたり、愛を囁いたりする。冷血漢ではない。
だけど、たまに。ふとした瞬間に、僕は、相手のことが好きなのか、相手をことを好きな自分が好きなのか、分からなくなることがある。どちらも正しくて、どちらも間違いなのかもしれない。
自分以外の誰かを通してでしか、僕は、僕に触れられない。
それが酷く虚しいと思うこともあれば、その距離感がいい防御壁になっていると思うことも。この世で一番近くて、一番遠い存在は、自分なんだろう。
ちなみに、長谷部くんを通して触れる僕は、……生意気すぎるのに、うまく言葉を話せない子どもみたいな手触りをしている。一日中、砂場で遊んでいたのか、髪を撫でると微かにジャリジャリ、と音がする。片手には錆びたスコップを持っていて、僕が「帰ろうか」と手を差し出しても、無言で首を横に振る。まだ帰らない、と。いやだ、と。
彼は背後を振り返る。その視線の先には、粗末な砂場。そこには、砂で作られた城らしきものが、ぽつん、と夕暮れのなかで鎮座している。
「ひとりで作ったのかい?」
彼は、無言で頷く。
「お友だちとは遊ばなかったの?」
また頷く。
「……僕と、遊ぶ?」
ぱあっと、彼の目が輝いた。
しかし、僕は彼とは遊んでやれないのだ。
僕は僕で、彼だから、僕は、僕の代わりに、さみしさで壊れそうな彼と遊んでくれるだろう長谷部くんを、あのとき選んだ。打算的だ。損得勘定だ。自分本位だ。
けど、それだけじゃなかったよ。
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