日記一覧
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89.モトカレはせべ
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88 :
燭_台_切_光_忠
01/24(日) 08:32
長谷部くんと話す機会が減った。
が、まあ、そんなことは今までにもよくあった。べったりしている時期もあれば、特にきっかけもなく、お互い別々に過ごす夜が続くこともある。
だから、特に何も気にしていなかった。
日に日にやつれていく、彼の姿を見るまでは――。
「なにか、あった?」
そう聞くことは簡単に思えたが、これが想像以上に難しいことだと気付くまで、実に一週間を費やした。僕は一週間も、衰弱していく彼をただ黙って見守ることしか出来ずにいた。
それから暫く経ったある日のこと。
久しぶりに、長谷部くんが僕の部屋にやってきた。
目の下にはクマが濃く刻まれていて、頬はこけて折角の男前が台無しだ。その段に至っても、まだ僕はどう言葉をかけるべきか、考えあぐねていた。
僕が聞いていいものなのか。聞いたところで、彼は話してくれるだろうか。
もしかしたら、新しい恋人のことで、彼はなにか心を痛めているのかもしれない。不用意に踏み込むのは、怖いと思った。彼の口が、慈しみを込めて、僕の知らない誰かの名を呼んだら、きっと僕は傷つくだろうから。
#「光_忠、聞いて欲しい事がある」
僕はなるべく平静を装って「なに?」と尋ね返す。他にもっと気の利いた台詞は、幾らだってあるだろうに。長谷部くんは、やはり言いづらそうに、躊躇の間を置いてから漸く口を開いた。
#「実は……、…実はな。隣の部屋から、毎晩喘ぎ声がして眠れないんだ」
「えっ。話したいことって、もしかしてそれ?!そんなこと?!」
そんなこととはなんだ、と、Majiで抜刀しそうな5秒前の長谷部くんを宥めながら、僕は彼の話を聞くことにした。
長谷部くんの隣の部屋は、物置きのようなもので、誰かの自室としては使われていない。が、それを良いことに、出会い茶屋代わりに使われているのだと言う。
毎夜、毎晩、薄い壁を挟んだ向こう側からは女の嬌声と、男の荒い息遣いが聞こえるんだとか。
「本人に注意すればいいじゃない。男のほうは、うちの本丸の子でしょ?」
#「誰だか解らん」
「じゃあ、こっちが歌でも歌って誤魔化すとか」
#「それはもうやった。が、効果はなかったな」
「へえ、どんな歌を歌ったの?」
#「般若心経」
「えっ」
#「般若心経だ」
般若心経かぁ…。思っていたよりも、結構本気で反撃を試みていた…。
「可愛いよ…」「そんなに声出して、……隣に聞こえちゃうよ?ふふ、…いいの?」とか言ってる最中に、隣からお経が聞こえてきたら、僕なら漏らすかもしれない。いや、普通に怖いでしょ!!!!!
「っていうか、それ歌かい?!」
#「広義で見れば」
「いやいや、広義で見ないで?!」
#「壁に寄り添い、朝まで唱え続けたというのに、……全く、奴らはいい読経をしている」
「えっ」
#「読経じゃない、度胸だ。間違えた。打ち間違えた」
「誰が!!!!!!!上手いこと言えと!!!!!あとそういう大人の事情は伏せて?!?!」
しかし、事態は深刻だ。
お経を唱えようとびくともしない、スーパーマグナムの持ち主を萎えさせる方法なんて、一朝一夕には思いつかな――あ!思いついた!
「リズムに乗れる曲のほうがいいよ!長谷部くん!」
#「たとえば?」
「咄嗟には思い浮かばないけど、腰を振ってる時にリズミカルな曲が流れてくると『嘘…?!僕のピストン、リズムに乗りすぎ……?!』って、萎えてくるもんだよ!」
いきなり言われても、萎えそうな曲が思いつかない。萎えそうな曲……、萎えそうな曲……。
沈黙を先に破ったのは、長谷部くんのほうだった。
#「あれはどうだ、主がよく書簡を書く間に聞いてらっしゃる歌は」
「どれ?」
どうやら長谷部くんも、件の曲の題名は知らないらしい。
あれだ、と続けながら、おもむろに手拍子を打ちはじめた。
#「ズンズン、チャッ(手拍子)ズンズン、チャッ(手拍子)」
ああ、あれか。
それなら僕も知っている。あれだろう?
「ペラペラ ペ~ラ♪ペラペラ ペ~ラ♪ フフフフフフフフ、ッフッフフフフーン♪ペラペラペンッ、ペンペンペンッ、サン……ペラペラ、ふふふふ~んペラペラ、ッペ♪」
#「うぃーうぃー」
「うぃーうぃー」
#「ろっきゅー!!!!!!」
「ろっきゅー!!!!!!」
うーん、なるほど。確かに萎えそうだ。
ろっきゅー計画実行の際は、長谷部くんの部屋に泊まって「シンギンッ!」とか「エビバデッ?!」とか、長谷部くんの美声に合いの手を入れるから、スーパーマグナムの持ち主は首を洗って待ってるといいよ!
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