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Aについて。
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129 :
跡部景吾
2010/01/23 00:26
日吉と、時々隠れてキスをする。
気配のない部室で。密室化した生徒会室で。屋上へ繋がる踊り場で。あるいは、夜の公園で。
完全な死角さえ確保出来れば、制服姿のアイツの股に脚を割り込ませる事もある。
俺達は若く、それ以上に衝動的だ。
今日の放課後、三階に続く階段を上り切る少し前で、部室へと急ぐ日吉に偶然出くわした。
段差のせいで俺より数センチも高い位置にいる日吉は、一瞬だけ驚いてみせた後、すぐに他所行きな表情を取り繕った。
「これから部室か?」
『はい』
「俺は生徒会の雑務だ。今日のメニューは忍足から聞け」
『わかりました』
周囲には俺達以外いない。…にも関わらず、俺も日吉も、喉に癖が染み付いたかのように当たり障りのない言葉だけを選ぶ。
何故かそれが妙におかしく思えて、俺は続く筈の言葉を失った。
互いしかいねえ今この瞬間ですら、『先輩と後輩』を演じる自分達が滑稽で面白い。
背後も確認しないまま一段先へと踏み込み、日吉の襟口を力任せに引き寄せて、斜め下から唇に噛み付く。新鮮な角度だ。
反射的にきつく瞼を閉ざした日吉は、唇が離れると同時に両目を軽く見開き、声なき声を発して俺を責めた。
ああ、この表情は『何考えてんですかこのハゲ!』だな。それが解るからこそ俺は何も言わねえ。ただ、からかい半分に目で笑う。
「今日の部誌担当はお前だ。コメント欄、忘れずに書いとけよ」
『…はい』
「どうした?」
『いや、何でもないですよ。それじゃ』
「ああ」
階段を上ってくる女子グループの声に気付いて、日吉は平静を気取る。
そうして別れた擦れ違い様に、小声で『バカですか』と言われた気がして、俺は背を向けたまま『嫌じゃねえ癖に』と脳内で毒突いてやった。
街中で手を繋ぐような開けっ広げな恋人行為なんざ、俺達ホモ野郎カップルには難易度が高え。
世間の目から隠れて独占欲を発揮するぐらいが丁度良い。
俺は毎日楽しいぜ、日吉。
俺達が有りの侭に自由なら、小さな砦のようなこのマンションで溺れる事はきっとなかった。
(元々、本人にバレない為の『A』呼びだった。今となっては意味がねえから、日記タイトルに反抗して捨ててみる)
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