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Aについて。
 ┗95

95 :跡部景吾
2009/07/22 02:23

深夜。雨音がきっかけで目を覚ます。

雨の夜が好きだ。
外部世界を遮断したかのような錯覚が堪らなく良い。
学校での立ち回りが派手な分、プライベートで引き篭もり願望が開花するのかも知れない。
愛しきワーグ,ナーのサ,バリッシュ盤は晴れの夜の為として、雨の日はピアノスケッチなドビ,ュッシーが聴きたくなる。
閉塞感の中で味わうそれは、雰囲気も相俟って春雨との調和が実に美しい。
絶対音感なんて洒落た才能には全く恵まれず、ヴァイオリンもピアノも昔から楽譜と睨み合う事ばかりだったが、雨の夜ばかりは得ずに済んだ幸福を思う。
とまあ、こんな過ごし方を雨の夜の理想として生きてきたわけだが、
10数年の人生をバッサリ斬る鬼畜な後輩の出現で、コレクションしたLPレコードの山は一晩にして実家送りとなった。

『なんですか、その曲。空気が重いです』

うるせえ。テメエの愛の方が重い。




ベッドから起き上がり、Aの隣をそっと抜ける。
雨音にかき消されるような控えめな音量でAが好きなアーティストの、中でも一番好きだという曲を流す。
振り返りベッドを一瞥するが、依然、Aが起きる気配は無い。
A曰く『子猫の爪のような声をした男』が同じ歌詞を延々とループさせて歌う。
何度聴いたところで、俺は好きにはならないし、別段嫌いにもなっていない。

デスクを前にワーキングチェアに腰を下ろした後、もう一度振り返り、今度は名前を呼んでみる。
返事はない。

布団が規則的に僅か膨らむ様を見て、生きているな、と思う。
好きでも嫌いでもない音楽が、誰の為でもなく延々流れ続ける。
日記を綴る合間に、また時々声を掛けてみる。
返事はない。
返事はない。
返事はない。
Aが熟睡している事が解る。
俺は、あぁ曲変えてえなとか思いながら、本日三杯目のコーヒーを口に運ぶ。
そうして夜が更けていく。

本当に雨の夜が好きだ。雨が降っている事は関係ない程に。

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