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昭和純情タンホイザー
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269 :
跡部景吾
2010/06/04 23:30
謎。
一緒に買いに行こう、つうその意図は解らなくもねェ。雑誌で見かけた其れだけじゃなく他の見たい、あるいは現物を見てから決めたいンだろう？で、あればとっとと運ばせて手にとって比べてみるのが一番いい方法だ。そもそも店内をうろうろ見回るShopping！（イイ発音）つうもんを一回もしたことねェわけじゃあねえんだが、サロンに行って座ってたって選べるものを、わざわざ出向いていってぶらぶら眺める、っつうその愉しさを俺様はいまいち理解出来ねェ。
……あれと、これと、それ。ケースから出してくれ
>…ちょ、早！――あ、すいませんまだええです…ざっくり見てからにせえへん？
俺が店員にあれこれと出させようとするのをそのたびごとに遮って、忍足があれはどうとかこれはどうとか言ってくる。
珍しい。忍足は、始終愉しそうだった。
>…じゃあ、これだ。カフスとタイピンならでかくもねェだろ？
――派手や。似合いそうやな。惜しいのはこの、緑の。緑やなくて、なんやったっけほら青い、…サファイア。あれやったら良かったのになあ
>いや？この石の方が似合うだろ。
いーや。絶対、青やって。緑より青。…やってほら、お前の瞳の色に合わせよ思たら、…
>ハ？…何で俺様の眸に…
この時に、思った。こいつは、最初っから自分の分を選んじゃいねェ。
俺が選んだものを、派手とかなんとか云いやがって俺に似合うものを探そうとする。バカじゃねェのか！
だから。
その時立ち去ろうとしたのも、呼び止める声に振り向いたのも、そのままブレスレットをつけられたのも、それをそのまま買おうとしたのも、苛々していたから、だ。
…鈍い金のブレスレット。
苛々している俺とは対象的に、嬉しそうに笑うあいつを見て、溜息しか出てこねえ。
――これ。それと、これと同じものを。
>…あ、すいませんちょぉ待ってもらえます？
…何が不満なんだ、あァん？
>そらもう不満だらけやで。俺が見つけた、お前に似合うモンくらい俺に買わせんかい。――大体なァ、俺は金は今ヒトツ似合わへんねや。…やからコレ。はい跡部
あいつは同じデザインの色違い、燻し銀のブレスレットを俺に押し付けた。
金額で言えば、俺には大したことねェ、でも忍足には大したことのある額のもの。
俺が忍足の分を、忍足が俺の分を買い、
まるで等価交換のようにみえるそれに、実は大きな差があるのを俺は知ってる。
知ってるぜ、忍足。
面白く、ねェ。
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