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昭和純情タンホイザー
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270 :
忍足侑士
2010/06/06 17:34
奴が天文学的なボンボンやってことは、良く知っとるつもりやった。
つもりやったけど、知っていることと、実感することとはまた別や、っちゅう話で。
ここまで距離を詰めてへんかったら、そんな風に思うこともなかったんやろう。
今までもこれからも、跡部は跡部で、俺は俺で、…だからこそ唐突に降ってきた疑問に、俺は咄嗟に言葉を失った。
> ……お前の気持ちは、嬉しいよ。そこが気にいらへん訳とちゃう。ただな、…、……
……、お前にとっちゃあ、大変な額で、そういうものを貰うのはプライドが赦さねぇか。…悪かったな。
> …阿呆、プライドちゃうわ。今更なあ、バレンタインのお礼や云うてお前が金のタコヤキ持って来たって驚かへんで、俺は。
何をどう説明したらええか判らんまま口ごもった俺に、険のある…というよりは醒めた口調で跡部は答え、やから同時に幾つかの「ああ」が頭を過ぎる。
――ああ、誤解されてもた。
――ああ、こういう話、始終あるんやろなコイツ。
こういう話、ちゅうのはつまり、
カネに纏わる他人の感情とプライドを巡る、面ッ倒くさい、話。
唐突に落ちてきた疑問、落ちてもた思考のエアポケットのせいで俺は対応を間違い、
(貰うんやったら最初っから、ホンマ?おおきに!て受け取るべきやった)
せやけど一度誤解されてもた以上、ほな頂戴いうてもやる方にも貰う方にもわだかまりは残る。
互いに「たかがこんなことで」て思いながら、ぎくしゃくするんが目に見えとる。
せっかくの跡部からのプレゼントを、そんな断絶の象徴にしてまうのはどうしても嫌やった。
――どっちの譲歩でもない、妥協点は何処や。
> ――なあ、跡部。買いに行かへん?一緒に。
贈り物は気持ちの問題、なのは判る。
ほンのちょっとした気持ちから端を発して、そこだけ等価交換というなら
俺の2,000円は跡部の200,000円になるんやろう、ちゅうのも判る。
そういう俺と跡部が、お互いのために20,000円のブレスレットを買ったとして、
…なァ跡部。それはホンマに大きな差なん?
価値て何や。差て何や。
例えばその金額が1秒で出てくるお前と、一ヶ月かかる俺と、
俺の方が余計頑張ったからお前は余計に喜んでくれるんか。
お前にとっては大したことないから、俺は適当に受け取っとけばええのか。
違うやろ。どれも。
一緒に店をうろうろ見回るショッピング、俺はめっさ楽しかったで。
…つまりはそれが、
そうして買い物を終えて、不機嫌の気配を纏いつかせたまま俺の部屋に来た跡部は、
いつものように部屋に入るなり無言がちになって、
組み敷いた身体から上がる声はいつものように甘く、
行為が終わって身体を拭いてやって、タオルを置いて戻ってきた時にはもう寝とった。
柔らかいその髪を指先で梳きながら俺は、二ヶ月前に落ちてきたきり、去っていかへんその疑問を取り出して、もう一度弄ぶ。
…なァ、跡部。
俺はお前に、何をしてやれるんやろな。
ラケット振ることとお前を抱くことしか能のない、この手で。
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