top
┗
拝啓、愛しのペリカンウナギ殿。
┗163
163 :
跡部景吾
2008/06/02 09:34
アイツは海が好きだ。
其の関係か水族館なんかは御気に入りだが、色鮮やかな熱帯魚が楽しそうに泳ぐ水槽には此と言ってそそられないらしい。
今更だがネジが幾つか外れてる姫は趣味が所謂「普通」とは何処か違っていて、俺の感覚からは大分離れた様な見た目の生物を好む傾向にある。深海魚なんかは特に大好物だ。勿論食う方じゃねえから悪しからず。
「深くて暗い海の底で一人ぼっちで泳ぐのはどんなに寒く淋しいだろう。
泳いで泳いでやっと巡り会えた相手を食べなくちゃ生きていけないなんて、本当は寄り添いたいかも知れないのに。
愛しくって、仕方ない。」
図書館で深海魚の図鑑を見ながらしみじみとそんな風に言いやがるから本屋で同じ物を買ってやった。何もアイツを喜ばせる為だけにした訳じゃねえ。
表紙に載ったグロテスクな姿を何度見てみたところで其の目に感情は読み取れず、何も映さねえ黒は出口の見えねえ洞窟みてェだった。
ッつうか深海魚が絶滅してねえ以上出会った二匹がするのは食い合いだけじゃねえだろう。―‥或る意味そんな表現も当てはまるかも知れねえが。
だとするならば其処迄寂しい事も無いんじゃねえの。寧ろ奴等には感情が無い。
他の物にばかり奪われる目を憎ったらしく思う事が有ったとしても、如何しても傍に置いてやりたかった。
深海魚が寂しそうだと言葉にしながら俺の知る誰よりも寂しい目をしていたのは、他ならぬアイツだったからだ。
其の孤独が少しでも紛れるならと祈った。
そして如何しても傍に居たかった。
だからこうして今も此処に居る。
「なあ、アンタってどうしてそんなにしつこいの。」
そうだな。多分俺も寂しかったのかも知れねえ。
空腹過ぎて其れを忘れちまう様に気づいちゃいなかったが、きっと「誰か」を切望していた。
一人ぼっちの旅の末に何処かで巡り会える誰かを。
[
返信][
削除][
編集]
[
Home][
設定][
Admin]