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拝啓、愛しのペリカンウナギ殿。
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182 :
跡部景吾
2008/06/08 02:24
声が聞きたくて会いに行く。
顔が見たくて此処に居る。
――御前に逢いたくて俺は生まれて来たんだ。
阿呆な考えだが本気で思っている節がある。出産の苦しみは男の俺も話に聞いた事があるが、きっと生まれて来る赤ん坊も苦しいに違い無ェ。
今迄居た暖かな世界から突然連れ出されたと思えば、その瞬間から阿呆ばかりの世の中の一員だ。劇作家の言葉を借りずとも、泣きたくもなるだろうさ。
そんな苦しみに堪えて生まれて来るには、余程素晴らしい事を引き替えにする筈だ。
――母親の苦しみの引き替え?知らねえな。唯、ある人によれば子供は5歳迄で親孝行をしつくしてるんだとよ。その頃迄の子供持ち前の可愛さで、親は充分に満足するそうだ。話を戻すぜ。
「余程素晴らしい事」ッつうのは人によって違うだろう。そして生まれた瞬間から誰しも、自分が得られる筈の代償を探し求めて歩いていく。これが即ち生きる事だ。
唯単に「生きる」と言えば簡単だが、それをこなすには労が要る。残念な事に生まれて来るだけが苦しみじゃァないらしい。更に代償が何かは知らされちゃいねえから、見つけられねェ奴も居るかも知れねえ。見つける事が道程で、それそのものを代償に宛てられた奴も居るかもわからねえ。何度も言うが人の幸福は千差万別だからな。
誰だかの言葉で「幸福な家庭は一様に幸福だが不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」みてェな物があった事を記憶しているが、個人で考えるなら本当に幸福の形は人それぞれなのだと俺は知っている。
―‥もし本当にそんな事があるとするならば。神なンざ信じちゃいねえが(強いて言うなら姫が俺の神だ)俺にとっての代償はアイツと巡り会えた事。そしてアイツが何処かで笑っていてくれる事に違いない。
御前に逢いたかったから、此処に居る。
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