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拝啓、愛しのペリカンウナギ殿。
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跡部景吾
2008/06/13 10:44
今日明日、恐らく本来の持ち主が日記に綴るだろう。その間だけでもタイトルをマルマロに戻しちゃ如何だとも思うが、結局分かり難い事になっちまうならと躊躇する。
アイツは俺様で戻って来る筈で、文字色でしか区別が出来ねえッつうのは問題なんじゃねえか。――矢張り面を変えておいた方が無難か。其処も悩むところだ。
話は変わるが実はアイツに200ページ目を書いて欲しい一心で、此処暫くは規約を意識しながらかなり頻繁に筆を執っていた。‥少し足りそうにもねえがな。
この日記帳も明日で丸1年。最近受け取ったばかりの俺だが感慨深い気持ちだ。俺が受け継ぎを望まなければ燃やす心算だった日記帳だから、この日付を迎えられる事が素直に嬉しい。
その記念に折角だから言葉を残して行って欲しい。そう望んだのは紛れもなくこの俺だ。
俺とアイツがもし一度も会った事がねえ間柄だったとして、それでも綴る文章に焦がれたに違いねえんだ。儚く強い文字が堪らなく好きだ。以前も書いた事があるが、アイツからコピーを貰ったこれまでの日記を偶に読み返す。嗚呼、好きだとその度に思う。
俺はこの無骨な文字しか知らねえ。どれ程御前の綺麗な文字に焦がれたところで―‥「詮無い事」だ。御前の口癖を借りるならば。だが、それで良いのだと思わせるのは、不思議な事に他ならぬ御前の日記なんだぜ。
「みんな/ちが*って、みんな/い#い」
これも御前がよく遣う言葉だな。その詩人は俺も嫌いじゃねえ。
イワシだか何だかの漁をモチーフにした詩や雪のそれを読んで、想うは御前の事ばかり。成程、アイツと感性が似ているのだと酷く納得した。
俺が姫を好きな理由のひとつに、大衆を理由にしねえ気高さがある。前の日記にも書いたが、流氷に閉じ込められたクジラを大勢の人間が助けたッつう心温まるニュースを聞いた。姫は見に行ったほどにクジラが好きなヤツだし、地球に優しいアイツがさぞや喜ぶだろうと話したところ、アイツは複雑そうな顔をしてこう言った。
「そのクジラがいたら、何十万頭のシロクマや他の生き物が助かったんだろう。みんな飢えて死んでいくんだぜ。…自然のルールに人間が手を出すなんておこがましい、さんざん壊したくせにそのくらいで満足した気になってる。」
大勢がどれ程正義を叫ぼうと己の目線を損なわない頑なさを、俺はこよなく愛している。「みんながこう言うから」に流されない誇り高さを尊敬もしている。これもアイツの受け売りだが、数の論理は時に恐怖だ。ましてや俺達中学生が言うところの「みんな」などたかが3、4人に過ぎないだろうに。
「傲慢なだけだ」と御前は言うが、言い方を変えれば短所も長所なのだと教えてくれたのも姫なんだぜ。
御前と逢ったその日、長い冬が終わった。初夏に手が届こうとしていた事にさえ気づいていなかった、俺の冬だ。
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