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Lily.
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106 :
日吉若
2009/06/26 19:09
空を御覧。
茜色の、空が、
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未だ空に朝焼けと真夜中が混在していた頃のこと。
指と指とを絡め真夜中の膝に頬を寄せる朝焼けの姿は仲睦まじく、誰もが翡翠で出来た二人の為の塔の永久成る繁栄を疑わない。
一歩踏み出せば灼熱の劫火、一歩踏み出せば何をも見せぬ暗闇。空とはそういうもので、朝も夜も無い混沌とは真理だった。
然し或る時、真夜中は朝焼けと別離することにした。
切っ掛けは何だったか、朝焼けの髪が腕を撫でただとか、背中のファスナーを指の腹で撫で上げた時にした自分の知らない匂いが堪らなかったとか、そんな程度だった所為で思い出せもしない。
眠る朝焼けの手を取り指の表側に口づけ、窓から飛び出した真夜中は暫し天空を逃避行することと成る。
(飲みかけのジントニック、踏まれた星の欠片、引き裂かれた暗闇のカーテン。)
――朝焼けは、真夜中がもう戻らないことを知る。
悲しみにくれた朝焼けが無残に裂かれた暗闇のカーテンに包まり永くに眠りに就けば地表は氷点下の世界、閉じた目蓋から零れる涙は溶けずにキラキラ、キラキラ。
全ての生き物が息耐えると思われた、頃。
空をマーブル色に侵蝕し始める一滴の朱、其の眩しさに目を開いた朝焼けが真夜中の匂いに絶呼し裸足の儘窓から飛び出すは、空に薄められた愛しいひとの血液へと手を伸ばす為。
此の瞬間より、朝焼けは真夜中を捕まえる為に世界の果てを往復する羽目に。
それだけが永遠。
* * *
厭に為って傍を離れた訳じゃ無いんだ。
彼の儘傍に居たならきっと、何時か毒林檎で唇を塞いで綺麗な背中の真ん中を硝子で切り裂いて仕舞いたく成ったから。
自分で、自分が、赦せなかったんだよ。
* * *
真夜中の左薬指の腹には小さな赤い斑点が在る。
朝焼けが自分を見失いそうな時にアイスピックで一刺し、赤い液体を雲の隙間へと落とす所為だ。
(忘れさせてなんか、やるものか。)
遠く遠い場所の、おはなしです。
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