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Lily.
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115 :
日吉若
2009/10/20 01:44
誰も彼もが貴方は御父様似ねぇ、と口を揃えて云う。
少しだけ厚みの持つ下唇や、色素の薄い髪色。
だけど、本当に灯の当たらない部分は、案外真白い肌をしているのだけどなあと俺は都度密かに思い、
そして憂う。
〔 Honeycomb 昇華*雨*空蝉 〕
我が家には愛玩動物、為るものが居ない。
唯一、細やかに庭に組み込まれた濃い翠の池を優雅に揺蕩う鯉が数匹居るけども、白い皮膚に赤い斑点のあの仔や真っ朱なあの仔や漆黒の皮膚の尾鰭の端だけが心無しか金色に光を反射する彼等の姿なんてとても愛玩動物の名は似合わない。宛ら、其処に巣くう主のようだ。
少うし昔には、番のハムスターを飼っていた。俺が未だ今より幼かった頃、ペットショップの表に置かれていた檻にぎゅうぎゅう詰めに為った其の姿をあんまり凝視していたものだから、母が隣にしゃがみ込んで一緒に中を覗いて、家に連れて帰る仔を二匹選ばせてくれた。そして其の夜各々に名前を附けて、世話はちゃんとするようにと母と指切りげんまんをした。初めて抱こうとしたら思い切り咬まれて大層痛かったのも覚えている。彼等も俺も、幼かったから加減を知らなかったんだ。
二匹で団子みたく真ん丸く為って喧嘩ばかりしているのを心配したものだけれど、過ごした数年は思い返すと今でも心が、きゅう、と痛む。
必ず訪れる永久成る別れの日。
──…あの日は、青灰の空に小雨振りしきる不思議な天気だった。
庭の隅の金木犀の影に二匹を埋めて、初めて味わう感覚に今より少し幼い俺は傘も差さずに茫然と佇んでいた。
何時の間に庭に降り立ったか、離れた所に父が居た。
雨に濃く変色した髪と、湿った睫毛の重さの分だけ伏せた目蓋で俯き微かに振り向いた俺の姿を視た彼は、…──小雨の子守歌に紛れて母の名を呟いた。
其れ以来、父は俺が愛玩動物を欲するのを良しとしない。
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