top
睡蓮の記憶
 ┗260

260 :滝萩之介
2020/10/19 07:18



もうすぐ誕生日だって。誰のかって?そんな野暮なことを聞くなよ。
耳打ちついでに耳朶を囓ってしまうよ。


多分、生きていて一番嫌な夏だった。…と思う。それはなにも2020年だからではなく、俺が生きてきた15年に少し足りない時間の中でだ。
あの眼差し、足元、たくさんの目、監督の声、切り取られた映画の画面のように浮かぶ。俯瞰しておきたいのは、自分の身に起きたことだと自覚してしまうとまだ涙が出てしまいそうになる時が…あるから。
7月、長雨に濡れる草木の青さが目に痛かった。教室はなんて狭いのだろうとも思った。テニス部からの噂は早く、逃げるように図書館で過ごしたこと…幾日。いや…週間?もうあまり覚えていない。その頃の記憶があやふやだ。ぼーっとしていたんじゃないかな。逃避中、紙で指を切ってしまった時は痛みより先に本を心配した。図書館の、公共の本を。

所詮俺たちはコマだ。チェスと同じ。目的は勝利。正レギュラーでいることはそういうことだった。
それでも、そのことと、他人の背中を見ることのつらさは別物だ、…と、…感じた。それなりの付き合いがあった人間が部長として何を考えればいたのかは結局わからなかったけれど…。
自分の手で何かを手に入れることの意味をやっと知る。


そんな嫌な夏も9月の終わりには途端に褪せて、やっと少し…、ほんの少し、立ち直れてきているような気がする。
ラケットを握って思い出すのはあの音。ボールの感触。コートの向こうへ抜けていく軌跡。体が動く。相手の動きを見る、読む。一瞬の判断で当てる、回転をかけて、思い通りのショット…。

わかるんだ。テニスが楽しいって。散々やったんだから。
多分、きっと、後悔や未練を抱えながらでも、テニスが好きだって…言うんだ。この先も。




俺が先輩たちの姿を追い、憧れていた関東大会は、終わってしまった。
正レギュラーなら出られていたかもしれない全国大会も終わってしまった。
その事実は変わらなくても。





---


えーっと。そう、近況。
ぴことはたまに待ち合わせをして会っていたんだけれど、それ以外の皆にはもう随分と、全然。
関わった人のことなら覚えてるし、元気だろうかと時々顔を思い出すよ。

俺は相変わらず。今は誰に身を焦がすでもなく穏やかに過ごしてる。
愛猫の相手をしてるだけでも毎日楽しいからね。あの甘えん坊。
ああ、連絡先は本当に変わっていない。これは本当。試してもいいよ。…笑



また書きに来るよ。

[返信][削除][編集]



[Home][設定][Admin]

[PR]♪テニミュ特集♪(携帯リンク)

WHOCARES.JP