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381.【小説】箱庭のLABYRINTH
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7 :樹暁
2024/05/04(土) 16:01:14

「わー、なにこれ! うごいてる!」
 アリスは小動物を知らなかった。自分と違う見た目をしているのに動いて話すそれらを不思議そうに眺め返す。
「こいつらはヘ……アリスの友だちになりたがっているやつらだ。危険はない。安心していいよ」
「へって言った? なに?」
「気にしないで。それよりこれを見てよ。君をかんげいするために用意したんだ」
 ノナンが指を伸ばした先の空間には、切り株の上に置かれたバスケットがあった。その中にはリンゴやブドウといった果物があった。それらにも見覚えがないアリスは目を輝かせて言う。
「なにあれ!」
「食べ物だよ」
「たべもの?」
「おいしいんだよ」
「おいしい?」
「あとでわかるよ。これはあとでみんなで食べよう。
 ここはみんなの広場でね。寝泊まりしているところはべつにあるんだ。まずはそこに連れて行く」
 ノナンは鼠たちにバスケットを運ぶように指示を出して歩き始めた。小動物はアリス以上にノナンの走りに追いつくことが出来ないので、ノナンは今度は歩いてアリスを導いた。それでもノナンは歩く速度が速く、アリスは短い足を懸命に動かしてノナンに着いて行った。
「どうぶつたちは木のうろ――木に空いている穴や、土の中にほった穴に住んでいるんだよ」
「あながすきなの?」
「そうなのかもしれないね」
 ノナンは小さく笑う。栄養を十分に取り込んで空に向かって伸びている雑草が、アリスやノナンに踏みつけられる。
「おれはほら穴に住んでいるんだ。ああ、でも穴が好きなわけじゃないよ? 動物たちとそこらへんでねることもある。一応拠点をほら穴にしてるだけ」
「きょて?」
「きょてん。おうちのこと」
「おうち……」
 アリスは頭痛に襲われた。何か、また。先程とは違う記憶が引き出しから顔を覗かせている。開いていないアリスの頭の中の引き出しを、何かがこじ開けようとする。強引なソレがアリスを苦しめる。アリスは表情を曇らせた。
「わたしにも……おうちが……」
「あ、心配するなよ。アリスはしばらくおれとくらそう。ほら穴生活もわるくないぜ?」
「ちがっ、そうじゃなくて」
 ズキン、ズキン、拍動する痛みに耐えかねて、アリスは頭を押さえた。立ち止まればノナンに置いて行かれることは分かっているので歩く、歩く、歩く。
 鈍い痛みによって、吐き気を催す。歩くことが作業と化していた頃、ノナンがアリスの足を止めた。
「ぷぎゃっ」
 また体勢を崩したアリスは草の中に突っ込む。ふわっとした感触がアリスを守る。アリスはむくりと起き上がり、はっきりとした意識でノナンを見た。そして、周囲を観察する。頭痛は何処かに溶けてなくなっていた。
 微かな冷気の漂う洞窟に、刈り取られた草が敷き詰められている。アリスはその上に座り込んでいた。いつこの洞窟に入ったのか。アリスには覚えがなかった。もしかしたら頭痛に気を取られている間に無意識に入っていたのかもしれないし、そうではないかもしれない。ただ、ノナンはアリスを見下ろして笑っていた。コケで埋め尽くされた岩肌がちらりと見える。緑色のそれはずっと奥まで続いていて、端が見えない。アリスは好奇心によってそわそわしだした。

「ねえ、ここはどこにつづいているの?」
「その先には行かないようにね」
 ノナンはアリスの問いに答えず言う。
「どうして?」
「あぶないから?」
 疑問に疑問で返すノナンに煮え切らない思いを抱き、アリスは頬袋に空気を入れた。むくれたアリスを無視し、ノナンはアリスに話し掛ける。
「寝るときはてきとーに草をよせて寝るといいよ。こう見えてけっこうあたたかいんだ。そもそもここは寒くないしね」
 洞窟の奥から、風が吹いてくる。アリスは変な気持ちになった。そわそわするような、ざわざわするような。ヒュウヒュウと聞こえてくる風音が妙に洞窟に響いている。
「アリス。さっきの食べ物食べよう」
 ノナンがアリスに呼び掛ける。アリスは洞窟から噴き出てくる風に押されるように外に出た。洞窟の中からだと余計に暗く見えていた世界が、少しはっきりと見えるようになる。
 一匹の鼠が、アリスの足の合間を抜けていく。鼠達はバスケットに集って口々に言う。
「たのしみだねー」
「おいしそうだねー」
「きみはなにがすきー?」
「あかいのがたべたいなー」
 語尾が伸びた、アリスよりも幼い口調。ふふふ、と小動物達が静かに笑い合う穏やかなその光景。
「ねえねえ、きみはなにがすきなの?」

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