エメトセルクはすごいよね、やっぱりワタシのことをよくわかってる。……フフ、だけど、彼がすごいのは理解しているのがワタシに対してだけじゃないからだ。
おそらく本人にそんなつもりはないんだろうけど……これは一種の考え方の癖みたいなものなのかな。
エメトセルクはかなり合理的なものの見方をするタイプだと思う。エーテルに限らず、人やものをよく観察することにも長けている。正確な情報に支えられた判断だから説得力があるんだよね。それに、自分の考えにしっかりと芯を持っている。誰かの声に惑わされることなく、正しいと感じる答えを導き出せる。……かといって情がないわけでもなくて、むしろ相手や周りのことを考えて、人知れずいつも気を遣ってくれているんだよ。伝えなくても済むことは極力言わない。その方が相手のプライドを傷つけずに済むからだ。その代わり、目印をつけたりヒントになるものをわかりやすいところに配置することで自ら気づき、正せるようにする。伝えるべきときは相手が彼の言葉を受け入れられるタイミングで話している。
……すごいよね、ここまでできる人はそういない。何か特別な訓練でも受けてたのかなってレベルだと思うよ。本人は大したことないみたいに自然にできちゃってることだから、こんなふうに言われてもピンとこないんだろうけど。……だけどさ、いつの間にか多くの人が彼を信頼し、慕っている。それが何よりの証なんじゃないかな。
エメトセルクは知らず知らずのうちに最適な答えを選び取っている。少なくともワタシにはそう感じる。
一緒に過ごすうちに気づいたんだ、彼ほどこの星のためになる者はいないだろうってね。だからこそ、ワタシの使命は彼の望みが叶うように助けていくことだと思ったんだ。
……あ、一応弁解しておこうか?ワタシがエメトセルクに怒られたり雑に扱われて喜んでるって思われてることだけど。そういう扱いをするのって、彼が心を許してる証拠なんだよね。じつは彼、出会った当初はこうじゃなかったんだよ。もっとピリピリしていたというか……。フフ、それも懐かしいなあ。彼がワタシをわかってくれたように、ワタシも彼を理解してきたから、今の関係があるんだって思うよ。こいつなら雑に扱っても大丈夫だろうって信頼を得られたということさ!……フフフフ、これはまた「ポジティブにもほどがある……」って呆れられるんだろうなあ……。
ヒュトロダエウスは変な奴だ。私がヒュトロダエウスのことを怒ったり雑に扱ったりすると喜ぶ傾向にある。
たとえばこの間の話だ。これから出かけるから支度をしろ、というときにヒュトロダエウスがベッドに入ろうとしていたので蹴り飛ばしたんだ。
「さっさと支度をしろ、お前は一度だらけるとそのまま動かなくなるだろう」
そう言い放つと奴はとても嬉しそうに「キミは本当にワタシのことがよくわかるんだね」と笑った。……蹴られたあとに出てくる言葉がそれか?
そんな調子で、ヒュトロダエウスはずっと私が何をしても言い返してこないどころか可愛いなどと言ってはしゃぐ始末だ。冷たくされるのが好きなマゾなのか……?と何度も聞いてはいるんだが、いつもきまって「エメトセルクの場合は愛情が見えるから、冷たくされてるって感じないよ」と返ってくる。ポジティブにもほどがあるだろう……。
ヒュトロダエウスは、私に理解されることを好む。出会ってすぐの幼いころ……ヒュトロダエウスには『転身が苦手だ、みんなはうまくできているのに。どうすればみんなのようにできるのだろう』と悩んでいた時期があって、私は深く考えもせずに「苦手なのではなくできないのだろう」と返したことがある。それがヒュトロダエウスにとってはとても感動する出来事だったらしく、当時はその話を延々と聞かされた……。理解してもらえた、と思ったそうだ。
ほかにもそうだな……上にも少し書いたが、ヒュトロダエウスは出かけるとき私より支度に時間がかかることが多い。なにかと動きが止まったり、支度に関係のないことを始めたり……まあ、一般的な傾向として時間にルーズな奴は多い。ヒュトロダエウスももれなくそうだ。だからタイムキーパーをすることがあるんだが、それに対しても「ワタシの性質を理解している」と感じるらしい。……私は時間に遅れるのが厭なだけで、べつにヒュトロダエウスがやりやすいように配慮しているわけではないんだが……。人によっては時間を拘束されてやりづらい、と文句のひとつでも出てきそうなものだが、そこで感謝してくるのが奴らしいというか……。
改めて考えるとやはりヒュトロダエウスは変な奴だ。……よく言えば寛容なんだろうが。厳しくしたり怒ってばかりの私とは正反対だ。……いや、怒らせるようなことをしてくるのはあいつなんだが。
しかし、こんな私とともにいて楽しいのだろうかという段階はもう過ぎた。ここまでの付き合いになれば厭でもあいつの考えなどわかる……。
ああ、これも"理解している"ということなのかもしれないな。
最近アゼムの影響で体を鍛え始めた。魔法でだいたいのことが片付くような世界だ、あまり必要とも思わないが……大剣のひとつでもふるえた方が奴に同行することが多い以上、都合がいいだろう。それにアゼムよりも体力や力が劣るというのは癪だからな、並べるくらいにはしておきたい。
ヒュトロダエウスはそんな私の傍で応援してくれている。せっかくならお前も付き合え、と言ったところときどき私と同じメニューをこなすようになった。最初はヒーヒー言っていたものの、今では私とともに同じことをできるのが楽しいようだ。私も私で汗を流すのが気持ちいいと感じる……ような気がする。そういうホルモンが出て、心を前向きにさせるとどこかで聞いたことがある。新しいことを始めるのも悪くないものだな。
少し前にアゼムが犬を飼い始めたらしいという話を書いたが、それ以来頻繁に犬の姿を見かけるようになったし、話も聞くようになった。小さくて可愛い割に、師弟に似てかなり活動的らしい。ペットは飼い主に似るというからな……。
生き物か……日々の癒しになることは間違いないだろうが、私にはすでに面倒を見なければならない居候もどきがいるからな。遠くから眺めるくらいでちょうどいい。
……そういえば、以前寄った村の犬はどうしているだろうか……。人懐こくて元気な黒犬なんだが、村では遊び相手があまりいないらしくエネルギーをもて余しているようだった。初めて相手したときは相当振り回されたぞ……。
その村はアーモロートからほど近く、どこへ行くにも何かと通りかかることが多い。そのため少し休憩をするときは犬のところにも顔を出すようにしているのだが……ヒュトロダエウスのはしゃぎ方が毎度毎度すごすぎる。
ほかにもうさぎがたくさんいたところにもまた行けたらいい……と思っているが、あそこはそう簡単に行ける場所じゃないからな……。
……こうして考えてみると遠くから眺めるだけでなく、割と触れ合っているな……。やはりあのふわふわからしか得られない何かがあるのだろうか……。
エメトセルクは食が細いと思う。ちょっと食べただけですぐに満足するみたいだ。……まあ、彼はエーテルが尽きるなんてことはないからね。食物からエーテルを摂取する必要も薄いんだろう、ほかの人たちより食事の頻度や量が少なくなるのも納得だ。逆にワタシは、エメトセルクから言わせるとよく食べる方らしいね。彼と一緒に食事をしていると、エメトセルクが必要なだけ食べたあと、過剰分の料理をワタシに回してくるのがなんだか微笑ましいんだ。ワタシがいないときは、何か食べようと思っても余らせて無駄にするのがいたたまれない気分になって、食事そのものをやめてしまうこともあるみたい。フフ、律儀だよねえ。
そんなこんなで、ワタシたちはたいてい一緒に食事を摂る。……だけど、お互いに忙しかったりしてそれが叶わないときもあるんだ。
つい最近もそうだった。緊急の議会があるとかで、エメトセルクが招集されて慌ただしく出ていったあと、その日はワタシひとりで食事を用意したんだ。パスタ・オブ・エルピスって知ってる?ああいうかんじのものを以前エメトセルクと一緒に食べておいしかったから今回も同じように調理した。それで食べていたんだけど。
……うん、たしかにおいしい味なんだろう。だけど、どうもエメトセルクがいるのといないのとでは、全然おいしさが違う気がしてさ。もちろん調理を失敗したわけじゃないよ?エーテルも問題なく補完できているのに、なんだか物足りない気分だった。……フフフ、やっぱりワタシにとっての食事は、彼がいてはじめて完成されるらしい。
味覚の好みがはっきりしているエメトセルクと違ってワタシはたいていのものをおいしく食べられるタイプなんだけど、言い換えれば食事の内容はなんだっていいってことなんだ。何を食べるかよりも、誰とどんなふうに食べるのかっていう方がワタシには重要なことみたいだ。そう考えながら、ひとりで味気ない食事をしていたところだったんだよ。
……ちなみに、エメトセルクはそのあたりは結構どうでもよくて、誰とどんなふうに食べようが美味いものは美味いしそうじゃないものはそうじゃない……ってタイプだよ。フフ、見事に正反対だよねえ。
そんなエメトセルクが毎回の食事をわざわざワタシと一緒に摂れるように合わせてくれている。……これって愛情だと思わない?彼に聞いたら十中八九、なにかしらの弁明をしてくるだろうけどね。一緒に食べた方が用意する手間が省けるとか、たまたま食事の時間が重なっているだけだとか、ワタシが用意した方がラクだからだとか……。でもさ、「一緒に食事をしないとお前が落ち込んで面倒だから仕方なく合わせてやっているんだ」っていうのは、弁明のようでいて結局、愛情を感じてしまうよね。
フフ、エメトセルクってば……よく寝てる。眠そうにしていたから寝台へご案内してみたら腕の中ですやすや眠っちゃって……フフフ、可愛いなぁ。ここ数日ふたりで一緒に過ごす時間が多く取れたんだ。こうしてベッドで寄り添って眠ったりもしてさ。彼の可愛い寝顔は貴重だからね、存分に堪能させてもらったよ。
ワタシはよく、好きとか可愛いとか本人に伝えてしまうタイプなんだよね。エメトセルクはそのたびに「……フン」ってそっぽを向いてしまうのさ。ほら、彼は照れ屋だからね。好意を伝えられたときに、どんな反応をしていいのかわからなくなってしまうのかもしれない。そんなところが可愛いと思うんだけど……するとやっぱり「可愛くない」って睨まれちゃうんだよ。フフフ。
たとえば……そうだなあ、いつもと違う照明が当たったときなんかにふと、すごく好きだなぁって思うんだよね。陽の光が降り注ぐ窓辺とか、間接照明のある室内とか、それから、傾き始めた日が斜めから照らす夕暮れ刻もそうかも。ワタシは彼の隣に並んでいて、その横顔を見るんだ。彼がそれに気づいて視線をこちらに向けたときの瞳の煌めき。ちょっと油断してたのかあどけないような表情で、少しだけ首を傾げてみせる。そういう瞬間を全部切り取って残しておきたくなるんだ。忘れるのが惜しいくらい、愛しいなあって思うよ。
彼を形造るもののうち、やっぱりもっとも目を引かれてしまうところは、あの金の瞳だ。一見冷たそうな光の奥に星屑を散りばめたような輝きを宿している。エメトセルクはときどき、本当に愛しくなるような表情をするんだよ。
冒頭のとおり、本人にもその都度伝えているんだけどどうもピンときていないみたいだ。それどころか、揶揄されていると感じてしまうのかもしれないね。ワタシとしては大いに本気でちっとも冗談のつもりはないんだけど!……と、いう話を、ずいぶん長い間ずっと、それこそ出会った頃からずっと言い続けているから、最近じゃさすがのエメトセルクも観念してきたみたいだ。うんざりとため息なんか吐きつつ、あれはおそらくわかっているんじゃないかな。ワタシが本当に彼を愛しく思っていることをさ。それでも、態度としてはあんな風に冷たくせざるを得ないんだろう。一種のプライドと照れ隠しってところかな?フフフ、難儀だねぇ……。
いくら邪険に扱われてもワタシが嬉しそうにするものだから、エメトセルクにとっては相当不可解みたいでさ。しまいには本気で心配して、「お前……それでいいのか……?」とか言い出す。ワタシとしては彼の気持ちがわかるから「好き」の返事があの態度だとしても全然悲しくなったりはしないんだけどね。
……エメトセルクって、本人が思っている以上に好意がわかりやすいんだもの、フフフ!