あの人にとってのおれと、おれにとってあの人と。
連絡を断つ前、そこに大きな差があるように感じて、その差に打ちひしがれて幕を閉じた。
でも今考えれば、おれとあの人はいつだって同じ歩幅で、同じ方向を向いていたのだ。
今もそう。
なにをするにも心地の善い距離感。
無償の愛がここにあるんだと思う。おれにもあの人にも。
お互い一番の愛はもう他所にある。
それでも心のどこかにあの人への気持ちがあって、誰かに向ける愛の根底にはあの人に愛された自信がいつも根付いている。
なんて幸せなことなんだろうか。
だれに理解されなくても、あの人との関係がいつもおれを正しい方へと導いてくれる。
6年。それだけの月日が経とうとしてる。
コラさんから手紙が届いた。
透過 生存if
一年越しのように思う。あの人の優しさを無下にしたのはおれだというのに。あの人は未だおれに愛を与えてくれる。
おれにとってのあの人はとても大事なものだった。
ただ、あの人の生き方と向き合うことが恐ろしかったんだ。
少し気まずそうに、それでも慈しみを込めた文字で書き募られた文字が酷く愛おしくて……おれはまたあの人の優しさに触れてもいいのだろうか。
お互いもうきっと愛を謳うことはしないだろうけれど、それでもあの人と共に生きてきた時間は決して他者から邪魔されるものではない。これからもそう在り続けるに違いない。
あの人がおれを大切に思ってくれることに偽りなどないのだから。
それが欲を孕まない愛だとしても、寄り添える相手であることには違いない。誰とでもないコラさんとだからこそ築いてきた歴史がある。あの人を愛した過去がある。
おれはそれをもう恐れないでいたい。
脇役の語るお話
島を歩いている道すがら、木に巻き付く電飾が見えたからあいつへの話のタネにでもなるだろうと前を歩くシャチを呼び止めた。
年末まで色々と満足いく月にしようと意気込んだ手前なにもかもが手付かずにここまで………自分で決めたこともままならないとはな…。日々の歯車の食い違いみたいなもんが続いていて、その弊害か久しぶりに眠れない夜だった。
起きてきたあいつの顔を見て、もう朝なのかと絶望。
元々部屋に籠る予定だったからあいつが掃除したり筋トレしたりしてるのを眺めて、うつらうつらと怠惰な時間を過ごす。
悪くない時間だと思う反面時々訪れる不眠の解決策は一向に見つからない。…隈もひどいもんだ。
そんなおれのこともアホだと一蹴してくれるあいつがいるからギリギリで耐えているところではある。
幸せを数えてねむる。
毎日がそうやって続いていけばいいと思う。
なんにも出来ねェ日もそばに居てくれるあいつに感謝を。
今日の晩メシは回鍋肉。
透過
「あれ、見に行かないか」
「おれとアンタで?」
からの無駄な攻防。行く行かないで割と真剣に揉めるハメになった。
「アンタのそういうとこマジで頑固!」と最終的にキレられてそういえばあいつにシャチに聞いておけと言われていたことを思い出す。
「おれは頑固か?」
「アンタが頑固じゃなかったら岩もマシュマロっすね」
仮にもおれはお前の船長なんだが……。
「なに言っても変わんないだろうし、別にいいと思うからついて行きますけど」
そんなもんかと思う。
頑固でもついてきてくれるやつがいるらしい。
あいつへの報告はあとで。
2023-12-19 追記
あいつに伝えると「ほらな!」と笑っていた。
柔軟なつもりなんだが、と言うおれの腹を擦りながら「身体と同じくらいバキバキだぞ」だと。
それは喜んでいいのか?ダメなのか?