・瓶詰めと海、シュレッドチーズ
いつからかははっきりしてないが、僕らにとっての……改まって書くのは恥ずいが愛情は液体みたいなかたちをしている。僕が初めて好きでいっぱいになったときに「蛇口が壊れたみたい」と言ってからかもしれないし、あいつが「溺れてもいいよ」って言ってからかもしれない。「深くて重い」って言っていたあいつに「じゃあ海だな」って言ったこともあるから、もしかしたらそれかもしれない。
お互いに注ぎまくって、溢れさせたら勝ちって言い合っている。あいつ曰く「器から瓶へ小分けにして時々移し替えている」とかで、そのせいかトータルじゃ多分僕が負け越していると思う。それがいつだって悔しくて堪らない。この先同じ関係のままい続けることが出来ても、どれだけ好きって思ったとしても、「オレの勝ち」って聞くたびに悔しくなるんだろう。これを書いている今も、正直悔しくなってきている。……「僕の勝ち」の数を増やしたい。
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一度、あいつが大事にしていた瓶をひっくり返してダメにした自覚がはっきりある。気まずいまま一夜が明けて、色々あって何も腹に入れてないあいつの腕を掴んでキッチンに行った。本当は一人で寝ようと思っていたんだが、見えた顔が……まるで迷った小さい子みたいだったから。
冷蔵庫の中身を見てピザトーストを作ってやった。何も凝ったりしない、ただピザソース塗ってチーズ千切って散らして焼くっつう、マジでそれだけ。「チーズと愛情多めがいい。サラミかウインナーもあったら喜ぶ。」ぼんやりしながらもしっかり強請ってくるあたり、僕と喧嘩慣れしてきたなと思う。
改めて持ってきたシュレッドチーズを一掴み分上乗せして、面倒だから包丁の代わりにハサミで切ったウインナーを乗せてオーブンに突っ込む。
焼きあがるまでの間、「そもそも愛情は作ってること自体に感じてほしい」と言った。
「同じこと思ってた」と言われた。
「普段作る時なんかスライスチーズ一枚きりだしウインナーだって入れない」と言った。
「特別扱いじゃん」って笑われた。
「本当は言われなくてもウインナーは入れてやる気だった」と言った。
「すきだから?」と聞かれた。
「オレがウインナーすきだから?」と言い直された。
「好きなお前が、ウインナーが好きなのを知っているから」と答えた。
笑いながら、あいつがしゃがみこんだ。
「涙出てきた」とあいつが言った。
出来たのは蕩けすぎたチーズがパンどころか敷いていたアルミホイルにまで流れ落ちてしまっているような、ウインナーはかろうじて耳に引っ掛かっているような代物だった。美味そうより残念な出来って感想が真っ先に出そうなものを、あいつは「今まで食べたピザトーストの中で一番美味しい」と言う。さすがにそれは大袈裟だろと思う。
それでも、シュレッドチーズ一掴み分……それとウインナーか。デロデロに流れ落ちた不恰好な見た目でも、あいつは愛情を感じてくれるらしかった。僕もしゃがんであいつが口を火傷しながら食べるのを眺めていて、こう。好きだな、って思った。何度目だろう、もしかしたら百何度目になるかもしれない。
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後片付けを終えて部屋に戻ってお互いに「ただいま」「おかえり」って言い合う。なんだか最近これが仲直りの合図に聞こえるのは気のせいだろうか。まあ、ココアやホットチョコレート以外にも仲直りの合図は幾らあっても困らないよな。僕らの場合。
どうやらあいつは僕が「泣き虫デュースくん」じゃなくなっても、変わらず好きでいてくれるらしい。