ちくと前にあいたぁが寝こけちょったきまじまじとその寝顔を眺めちょった事がある。あこまで整いきった顔しちゅうと、いっそもう腹も立たんのじゃなと妙に達観してしもうたちや。
とは言えここはカルデアじゃ。古今東西、洋を問わず美男美女が掃いて捨てる程おりゆうき、わしの目がバカになっちゅう事も加味してきちんと見定めちょかんとならんろう。

そがな訳でえい男グランプリを開催する事にしたがよ。

グランプリ、ちゅうても催し物をしゆう訳やない。目に付く男を端から吟味してあいたぁとどっちゃがえい男か軒並み比べていくだけの簡単なお仕事ちや。鼻歌交じりで済むじゃろう、きっとここに居る歴戦の勇士らぁを隈なく見ていけば、土佐の片田舎の平侍らぁてたいそい者でもないと目も覚めゆう……筈、…やったに…。




顔の造りだけで男っぷりを測ろうなんち、烏滸がましいにも程がありゆう話じゃけんど、ほれでもこがな事になるとは思わざったちや。
惚れた欲目か、痘痕も靨か。どがな美男子、好青年、王侯貴族様と並べても一等えい男に見えてしまいゆう…。わしの目もとうとうちゃがまってしもうたにかあらん。

しょうまっこと、げにげにえい男…。
わしの旦さん呆れる位えい男……。

今年の正月はしょうげに何も出来ざったきほれだけは悔やまれゆう所じゃけど、去年の正月あいたぁとお竜と三人で拝んだ初日の出と、桂浜から見た大海原は言葉にならん美しさがあったがよ。
ほれがどうにも忘れられいで居ったけんど、昼間の浜もほれはほれでえいもんやったちや。明るい日差しの下、キラキラ水面にお日さんを反射させゆう海は大層綺麗でのう…。岬の上のお宮で引いた御籤もマスターの幸先をえいもんじゃと太鼓判押してくれちょったき、大事に持って帰って来たがよ。

ほう言えばあいたぁの銅像。何ぞ隣にごっつい囲いと足場が組まれちょったきに、もう一体誰ぞの銅像でも立つがかち思うちょったら、坂本龍馬像を間近で見ようっちゅう物見櫓やったらしいちや。

……龍馬。おまんまっことおかしな持て囃され方しちゅうな。
面白い土産話が仰山有り過ぎてきちんと内緒に出来ゆうか、ちくと自信が無うなって来たちや。

腹が減っちょったり寝れちょらんと余計な考えが浮かびゆうもんじゃきに。たらふく飯でも食うてたっぷり寝ちょけば気も晴れるろう。
ほうじゃ、飯で足らざったらあいたぁで補給するんもえいじゃろしの。憂さも晴れて一石二鳥ちや。

久しぶりに蝶の爺の店を訪ねた。
相変わらず盛況そうなんに場末の酒屋みたいな喧しさは無い。これがBARっちゅうもんながか、酒を静かに飲むらぁてそがなしみったれた趣味は無いきに部屋に置いちょく用の酒瓶を見繕うて貰うて退散したけんど…。わしもあがな風に飲めたらまた何か違うたんじゃろか。
その足で図書館へ寄る。時鳥の名を持つ男の本を借りてみた。

イゾー、イゾー、とよう遊びに来ゆう。
初めの方は慣れざった。土佐に居った頃や京に上ったすぐの頃ならいざ知らず、無宿人に零落れて以降は犬も寄り付かん有り様じゃったきに。自分が子どもに好かれゆうらぁて思いもせざったがよ。
ほれに、カルデアに来てからもあがな小さい子どもが返り血の避け方も知らんまま敵の懐に飛び込んで行きゆう様は、滅相肝が冷えたちや。
まさかわしでも遅れを取る程強いらぁて思わんろう？ジャックには聖杯貰うまでかなりの数一本取られちょったがよ。…あと食堂のプリンもの。

最初は同じクラスの好誼でジャック、その次はジャックと一緒に来たナーサリー。わしに本読みやら菓子やら小遣いやらを強請りゆう二人を窘めに来ちょった筈が、一緒になって遊ぶようになったリリィのジャンヌオルタ。皆より少し離れた所から遠慮がちにしちょったアビゲイル。自分は子童やないち言いもって他の誰より菓子に目がない茨木童子…。

仔犬みたいにキャンキャン纏わり付いて来ゆうあいたぁらの相手をするがはまっことえい。くさくさしちょってもいつの間にか気が晴れちゅう。
今日もそろそろ来る頃じゃろか…。

今日は久々の一人じゃきあいたぁとは出来ん夜更し三昧をしちゃろ。この日の為に黒髭やマスターに頼んで漫画本とタブレット借りちゅうんよな！




……そがな風に思うちょったに、幾らも経たん間に飽きて来てしもうた。つまらん。一人で過ごす夜らぁてこれっぱぁも面白うないちや。やっぱりあいたぁやお竜とやいのやいの言いもって過ごしゆう方がえいのう。漫画より映画よりゲームよりも龍馬がえい。