>>

　朝からばたばたと、不釣り合いの忙しなさで身支度をしたアンタが窓の外に視線をやって大きく溜め息を吐いた。言葉通り生憎の天気にうんざりしたのか、アタシと明日の夕刻まですっかり離れることを憂いたのか、どちらだろうと一瞬過ぎって、その自分の自意識の強さに恥じ入った。いえ、きっと少しは、それなりに、寂しく思ってくれているとは思うけど……ちょっと、自意識過剰が過ぎる気がして。
　そんな気恥ずかしさを誤魔化して、どこか申し訳なさそうに眉を下げるアンタの背を押して見送った。折角のお出掛けでしょ、美味しいものでも食べて忙しさを乗り切る力にしたらいいわ。寂しくないとは言わないけど、これでもアンタの伴侶になって久しいの。きちんと待ってるわよ、良い子でね。

>>

　アンタの居ない間何をしたらアンタが喜ぶかしら、と考えて日記帳を手に取った。アタシのアンタに宛てた日記を読むのが好きだって、その言葉が変わっていなければ多分、喜んでくれる……はず、よね。いえ、弱気じゃいけないわ。きっちり喜んでもらうのよ。


>> 求愛行動の話。

　あれはアンタが中々自分の思うように時間を作れなくて、少し自信を失ってる時の話ね。アタシ以外の人との可能性さえ考えて欲しくないから放った言葉に、アンタは心底意外そうな顔で、「……お前そんな心配することあるのか……？俺がこんなに盲目の骨抜きだってのに」って言ったでしょ。なにを当たり前のことを言ってるのかしら、って思って唇を尖らせながら、

「あ、当たり前じゃないの……目移りして欲しくなくてアタシはこんなに好きよ、愛してるわよって求愛行動してるんでしょ……」

って返したのよ。そうしたらアンタ、

「…………言ってる内容はもっともなんだが、求愛行動って言われるとくるもんがあって他が頭に残んねえな……」

　？？？
　あの時のアンタのあの変な顔、本当に何だったのかしら……？　結局理由も教えて貰ってないし、時間のある時に改めて教えてちょうだい。

>>

　最近のアンタは特に忙しくて、元々よく眠るアンタが殊更早く長く眠るようになった。それは良いことよ、アンタがしっかりと休めているのならそれに越したことはないもの。
　その影響でアタシは夜の時間を持て余すことが多くなったのだけど、最近はその手隙を使ってイデアからオススメされたゲームをプレイしている。手持ち無沙汰でいるとどうしても寂しさが募って気持ちが下向いてきてしまうから、それならその余った時間に色々と詰め込んで厄介なネガティブ思考の付け入る隙を埋めてやろうって寸法。名付けて『兎に角やる事を増やして落ち込み回避大作戦』よ。

　……ただ、やっぱりアンタでしか埋められないものはあって、そこが埋まらない限りは何をしていてもほんのりと寂しさを感じる。それは決して悪いことではなくて、それだけアンタはアタシにとってかけがえのない存在だってこと。アンタの足りていない数日でつくづく思い知った、アタシって本当にアンタのことが好きで好きで仕方ないんだわ。アンタの寝息しか聞こえない夜にあれこれとやってみても、結局はアンタのことばかり考えているんだから。
　仕方ないやつだな、ってアンタに呆れられてしまいそう。でも、そうよ、仕方ないのよ。アタシはアンタがひたすら好きなだけの、仕方のない男なの。


>> 以下、私信。

土曜限定日記のナツキへ。

　こんにちは、ミスターナツキ。こうやって直接お声をかけるのは随分久々になるわね。
　実はね、おそらくアタシたち宛ての私信だろう、と思って引越しのご挨拶に向かったことがあったのよ。でもポストにお手紙を……と思って何度投函しても上手くいかなくて、その時はもう酷くやきもきしたものよ。けれどそれも過ぎた話、こうやってまた同じ場所で見掛けることが出来て嬉しく思うわ。
　そうそう、アナタたちも変わらず仲睦まじく過ごしているようで安心した。アタシ、アナタたちの日記がとても好きで、更新あるかしら、って定期的に見に行ってたのよ。だからこそ、前述した私信も結構早めに見付けていたんだけど……レスポンスが出来なくてもどかしい思いをしたことも、今となっては愉快な思い出ね、ふふ。
　これからもお二人の幸福を願っているし、変わらず元気にしているかしらって覗かせて頂く気でいるから、どうぞよろしく。二人で仲良く楽しい毎日を過ごしてちょうだいね。

名前のない日記帳のアナタへ。

　──返信不要とはあったけれど、恐らく、アタシたち宛てだろう、と思って勝手に返させて頂くわ。大きな独り言だと思って、どうか気を揉まずにいてくれたら幸い。
　アナタの暖かく優しい願いは、いつだってひとを思う気持ちに満ち溢れていて、いつもアタシを優しい気持ちにしてくれる。心配、してくださってありがとう。少し慌ただしい日々ではあるけれど、変わらず毎日を寄り添って過ごしているわ。仄暗い気持ちが全く無くなった訳ではないけれど、それを気にして今を楽しめないのは本末転倒だもの。……偉そうに言っておいてなんだけど、これはアイツの受け売りなの。ふふ。

　そうだ、お二人でハートを育てているお話がどのエピソードもほっこりと心が暖かくなるものばかりで、とても好きよ。部外者ながら成長をとても楽しみにしているわ、これからも成長録を覗かせてくれると嬉しい。……あ、猫バトンもありがとう。時間のある時に楽しくうちの猫科と一緒に答えさせて貰うわね。にゃー。