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19.妄想リザルト
 ┗352

352 :暇な人
2010/08/01(日) 22:11:22



―訪れる変化―

 もはや例えでは無くなった話。
 どことも知れぬ島の只中、小さな小さな森の奥に、こじんまりとした一つの家があった。
 その家の中央には古めかしい木彫りの机があり、その脇には小さな椅子が二つある。そして椅子の上には二つの人影が座していた。
 一つの影は教師であり、一つの影は教え子だ。
 教師は“概念”と化した存在である妙齢の女性。椅子に深く腰掛け、肘で支える両の腕に顎を預けて眼の前に座る教え子を眺めている。
 対するもう一つの影は、小柄な──少年と呼んでも通じそうな曖昧な身体を持つ娘。彼女は膝の上に置かれた自身の拳に視線を落とし、ただただじっと押し黙っている。
 彼女の口はきゅっと一文字に結ばれており、表情の変化に乏しい顔も、心なしかいつもに比べ困惑しているように見える。
 そんな終わりの見えない静寂に、対面の教師は諦めたように一つ息を吐く仕草をしつつ、ゆっくりと、言葉を確かめるようにして教え子に語りかけた。
「……で、どうしたの? ノエル。相談が、あるんだよね?」
 その声にノエルは一瞬、体を強ばらせたが、崩れぬ表情からその真意を汲み取る事は不可能と言っても差し支えない。 相変わらず沈黙を押し通すノエルに、その眼前に座る教師──つまりレェア・ガナッシュは考える。
 ノエルがここにやって来たのは小一時間程前。例の冒険者がティネに滞在する間に、また無理を言って抜け出して来たのだろう。
 あの冒険者はまたしても期待以上の働きをして、大きな厄介事を解決してしまったらしい。その件の詳細についても再びノエルに書記してもらい、暇つぶしに読んでみたいとは思うが、どうも今はそれどころでは無いようだ。


>>351

(ez/W56T, ID:zw4/A8Q5O)
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351 :暇な人
2010/08/01(日) 22:10:16

 ノエルはここに来ると同時に、相談がありますと言ったきり、一言も喋ってはいないのだ。しかし喉が乾くのか、レェアが沈黙を持て余した末に飲んだ一杯のお茶に対し、ノエルは既に三杯目のお茶を飲み干していた。
 このままでは、自分用に買い置きしておいたお気に入りの茶葉を使わなければならないかも知れない。そんな具合にレェアの思案が少々脱線し始めた頃になって漸く、ノエルは固く閉ざしていた口を開いた。
「どうも…おかしいのです…。」
 何が?直ちにそう問いただしたい衝動をこらえ、レェアはノエルの次の言葉を待った。すぐに結論を求めようとするのは己の悪癖である。ノエルも時折り自分の言いたい事を飲み込む節がある為、話そうとしている時は彼女の流れに合わせるべきであるだろう。
 このように考えられるようになったのは、命脈と言う大きな流れと繋がったからか、もしくは寿命と言う時間的概念から半永久的に解放されたからか。レェアは少なからず自身の変化に驚いていた。
 しかし、そのような変化も眼前に座す娘の前では霞んでしまう。それ程までに、今のノエルの様子はレェアの知らないものであった。
「その…最近、突然動悸が、激しくなる事があるのですが…。」
 瞬時にレェアの頭の中ではいくつかの候補となる原因が浮かび上がった。そして、その内最も面白い、いや、喜ばしい原因の可能性について考えを巡らした後、レェアは薄く口角を吊り上げた。
「先生、これはもしや、じゅ……病気、なのでしょうか?」
 その言葉にレェアは我に返り、指を口に当てて考える。ノエルの体は構造的には人間と同じと言っても差し支え無い。ならば、人間が患う病を発症する可能性も否定できないだろう。しかし、それならばまだ良い。真に恐ろしい可能性は別に存在した。言葉は濁したが、ノエルもその可能性を考えているのだろう。
「先生…私は…」
 ノエルは垂れた頭でレェアを見上げるようにして何か言いかけるが、その後が続かなかった。

>>350

(ez/W56T, ID:zw4/A8Q5O)
350 :暇な人
2010/08/01(日) 22:09:14

 しかしレェアには、彼女が何を言おうとし、そして言えないでいるのか分かっていた。
「大丈夫。私に任せなさい。ただ、少しだけ考えさせて。」
 レェアは考える。もし、“それ”が迫っているのだとすれば、早急に対策を立てなければいけない。しかし、その為にはレェアの持っている情報は少なすぎる。問題の解決には、何より確かな情報が必要なのだ。ならば、すべき事は次第に見えてくるのだが、レェアはその手段をどうしても良しと断ずる事が出来なかった。
「…でも、いずれはやらなきゃいけない事か…」
「先生?」
「ノエル。○○をここへ呼んで貰える?」
「え、○○を、ですか?」
「ええ。解決策はあるにはあるのだけれど、きっと私の力だけでは足りないと思うから」
「しかし…」
「嫌?」
「い、嫌と言う訳では!…ただ…あまり知られたく無いので…」
 そう言ってノエルはまた視線を落とす。その様子にレェアは心の中で驚きの声をあげた。ノエルは自身の急激な変化にどれほど気付いているのだろうか。
「それに、呼ぶなら私が行くまでもなく、レェアの方が都合が良いと、私は考えます。」
「私には準備とか、まず色々とやらなきゃいけない事があるからね。あなた達が戻ってくるまでには終えておくからさ。」
「しかし…」
「やっぱり嫌なの?」
「ちがいます!」
 今度は流石のノエルも驚いて自身の口に手をあてた。この程度の問答で声を荒げる事など、以前の彼女からは考えられなかった事である。
「…わ、判りました。○○を呼んできます。」
 ノエルは消え入りそうな声でそう呟き、壁に立てかけてあった黒銃を抱え逃げるように外へ飛び出していった。

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>>349

(ez/W56T, ID:zw4/A8Q5O)
349 :暇な人
2010/08/01(日) 22:08:05


 レェアは深く溜め息を吐くと共に、祈るように目を閉じ空を仰いだ。
 『どうか、そうであって欲しい…』
 レェアは去り際の薄く紅潮したノエルの頬に、微かな希望への可能性を見いだしていた。しかし、それ以上に絶望の可能性が重くのし掛かり、不安ばかりが大きくなっていくのを感じていた。
 『…でもどちらにせよ、これが最後なのでしょうね…』
 薄く目を開いたレェアは、悲哀の色を混ぜた息を吐き出す。そして二度三度と首を左右に降った後、ふつ、と溶けるように椅子の上から消えた。

See you Next phase...

(ez/W56T, ID:zw4/A8Q5O)