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120.賭狩《トガリ》
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2 :迅
2020/10/08(木) 06:36:27
下準備:Dead or Live
「君の持ち札は結構良さそうな気もするけど……どうする?ヒットする?」
「ッ……」
高鳴る鼓動、汗ばむ右手、そして恐怖と焦燥が重なって呼吸がどんどん速くなる。
このブラックジャックのレートは、まさかの1チップ5万円。金額も金額で大概だが、それ以上に困る問題が一つだけある。
「(勝負に負けたら……俺の人生は……!)す、少しだけ待ってください……!」
「どーすんのサァ、次はバカラでゲームしなくちゃなんないし?俺だって暇じゃないんだよねェ。だから速く決めてヨォ」
ディーラーはため息を漏らし、女生徒から受け取ったスケジュール表を巡りながらボヤく。
「本当に良いのか?もしもスタンドしてしまったら、負けてしまうのではないか?」と、心臓がものすごい勢いで警鐘を鳴らす。
一世一代の大博打とは行かないが、ここで負けてしまったら───考えたくもない。
「ひ……ヒットだ。はやくカードを……」
「やっと言ってくれた。今ので30秒無駄になったけど、今回は多めに見てあげるヨ」
少年の言葉を受け取ると、フードを被ったディーラーは山札の上から素早く一枚引き抜き、彼の手下に引いたカードを滑らせる。
彼はそのカードを手に取り裏返す。その裏に書かれていたのは ︎のJ|(ジャック)。
「(この手なら……いける!)合計21だ!」
︎の8、 ︎の3、そして ︎のJによって創り出された21に、周囲は「おぉ」と騒つく。
一方、ディーラーのアップカードは ︎のK|(キング)。ホールドカードが未知数だが、スタンドしたなら数は限られてくる。
「(ディーラーが直接スタンドしたという事は即ち、手札合計数が17以上である事!)」
勝利を確信し、ほくそ笑む少年の表情は───次第に絶望のそれに変わっていった。
「嘘……だろ……!?」
「ブラボーブラボー、なんか儚い期待持たせちゃったみたいだけどゴメンねェ。どうやら運命の女神様|(フォルトゥーナ)は、俺に微笑んでくれたみたいダネ」
ディーラーのホールドカードは、 ︎のA|(エース)。
ブラックジャックは手札の合計を21に近づけるゲームなのだが、万国共通のルールとして、21にも『ただの21』と『特別な21』が存在する。
「《ナチュラル・ブラックジャック》……非常に残念だけどさァ。お前の人生、終了だよ」
少年の21が前者とするなら、ディーラーのそれは後者であり、絶対的な勝利の札。
「今まで頑張ってたようだけどさァ、その努力がぜぇ〜んぶ水の泡になっちまったよ!」
「うっ……うあぁ……!」
「さァ!トランプゲーム統括委員長・透形迅|(とおがたじん)に立ち向かい、そして見事に玉砕した彼|(愚か者)に盛大な拍手を!!!」
ディーラー・迅が両腕をバッと広げた刹那、ホールから盛大な拍手と笑い声が挙がる。勝者を讃える拍手と、敗者を嘲笑|(わら)う笑い声。
声援を受け止める迅は失意に溺れる少年の前に屈み、彼の耳元で囁く。
「まァこれかれ大変だろうけどサ、人に戻れるよう精々頑張りなよォ?《ポチ》ィ。ウヘッ、うははははははははは!!!」
「っ……」
その日、僕は人ではなくなった。
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