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120.賭狩《トガリ》
 ┗8

8 :迅
2021/07/14(水) 20:40:01

「さぁさぁいらっしゃい!今回は『下剋上』開催記念で、普段よりも多く換金するよー!」

 『換金所』と書かれた看板の下で、舞踏会用の仮面で目元を隠した男子生徒が高らかに言う。
 ───『下剋上』。
 その名の通り、『家畜』や『奴隷』と言った下層階級の人間が、上層階級の人間に叛逆する機会が与えられる唯一のイベント。
 出資者と呼ばれる存在がいなければ参加は出来ないが、『借金』を借りて参加することは出来る。
 奴隷脱却を目指す者達にとって、『下剋上』はまさしく干天の慈雨であり、唯一無二のチャンスだった。

「あの、巳羽様……お手洗いに行ってもよろしいですか?」
「さっさと済ませて来てよね」
「は、はい。ありがとうございます……」

 『ポチ』は周囲からの視線を受けながら、男子トイレに向かう。『下剋上』と言う一大イベントが開催されるだけあって、校内の至る所がお祭り騒ぎだった。

「やっとあいつらに復讐出来る!」
「俺、今日で奴隷から抜けるんだ……!」
「君と一緒に奴隷から抜け出せたら、付き合おう!」
「うん、待ってるね」
「(やっぱりすごいな……)」

 廊下には、様々な人間がいた。
 叛逆の機会に喜ぶ者、意気込みを熱く語る者、絶対に叶わぬ愛を約束する者。
 『ポチ』は、かつてそう言った者達を侮蔑の視線で見ていた事を思い出す。

「(それが今じゃ、皮肉なもんだな……)」
「やぁやぁ、楽しそうじゃないの」
「ッ!!」

 トイレに向かって廊下を歩いていると、不意に背後から声をかけられ、『ポチ』は声の方に振り返る。
 そこには、前髪で目元を隠した長身の少年が壁に背を預けていた。

「お前は……!」

 『ポチ』が警戒を露わにすると、肩をすくめた少年はヒラヒラと手を振り、敵意はない事を伝える。

「いやだねェ、ボクはただ君の様子を見に来ただけなのにサ」
「何のつもりだ?」
「べつに?支援者が受領者の様子を見に来るのは自由だろう?」

 少年は前髪をかき上げ、一房垂らしてそれ以外を髪留めで止める。
 いつも飄々としているが、今回は普段よりも酷い。
 本当に、掴みどころのない男だ。
 少年は壁から離れると、ポケットに手を突っ込んだまま『ポチ』の目の前に立つ。

「君には期待しているよ。だから期待を裏切るような事をしたら、分かるよね?」
「望むところだ」

 相対する『王』と『奴隷』。
 しばらく対峙していると、不意に少年がふっと口許を緩め、踵を返して去っていった。

「相変わらず読めねぇな……」

 すると突然、全身に悪寒が走る。
 そして、思い出したように『ポチ』はトイレに駆け込んで行った。

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