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283.短編小説のコーナー
 ┗36-38

36 :げらっち
2022/08/07(日) 15:26:31

>YO!メンズスターの過去編である「CGR0」の冒頭のみ掲載だYO!


嵐のような人生だったに違いない。


《CGR0》


涼しい季節、のどかなショッピングモールが、突如、ドンと爆発した。
炎に包まれる商店、逃げ惑う人々、悲鳴を上げる非常ベル。起き上がる黒煙、泣き叫ぶ子供たち、立ち込める死の香り。

テロではない、戦争でもない。

これは「荒らし」だ。

2013年。
人類は、魔法の発現により大きな分岐点に立っていた。
世界各地に魔力の片鱗を持った「魔族」が生まれ、彼らは激しい差別を受けていた。科学と文学と宗教に「魔法」が加わり、それらはかつて保っていた絶妙なバランスを失い、全てが仕切り直しになった。哲学は未明のものとなった。
不条理な立場に置かされた者は、「世界を荒らす者」と成り、破壊の限りを尽くした。これは欲得主義ではなく、純粋な破壊衝動によるものだった。破壊自体が目的だった。世界を壊し、荒らすことが、虐げられた彼らの使命となった。

その分岐点は、三叉路かもしれないし、四つも五つも道があるかもしれなかった。そのうちの一つを選び取るのは、重大な役目だった。

その重大な責務を引き受ける者が居た。

「あーあ、また派手にやってるねえ。白昼堂々、荒らすとは。」
自転車でショッピングモールに駆け付けたのは、15歳の影原少年。カゲハラというその苗字からゲラッチと呼ばれていた。
「あいつらに昼と夜の区別があるとも思えない。大したことないだろ?見かけ倒しだし、抑俺たちにかなうわけがない。」
ゲラッチの相棒であるレナック。手足が細長い、痩身の男。煙草を咥えている。未成年なので火はついていないが。

「そりゃあ、もちろん。何しろ我らは、チート級……」

「キュハハハハ!!!」

爆炎の中から、低い声の高笑いが聞こえた。黒煙のカーテンをシャッと開けて、小柄な男が現れた。ピエロのような風貌だ。
「久しぶりだなカシス、いや、カリナのほうか?」とレナック。
「はっずれぇ~♪俺カシス。盤盤盤盤俺派カシス。」
ゲラッチはそのピエロと向き合い、眼鏡を押し上げた。
「やあカシス。君をSaxophone獄に送ったのは間違いだったね。」
Saxophone獄といえば、数々の荒らしを収監する地獄の堅牢だ。
「盤盤盤盤そりゃそうだ。あそこのごはんは美味しくない。だから、2秒で脱獄した。」
「やはりな。お前に裁きは生ぬるい。私が直々に、お前を世界からアク禁にしてやろう。」
「やれるもんならね。」とカシス。「カリナちゃ~ん♪」

「キュハハハハ!!!」

ピエロの鳴き声に呼応するように、もう一体のピエロが現れた。見た目はそっくりだが、こちらは声が高く、目元に涙があしらわれていない。クラウンだ。
そのクラウンは、手に、老人の生首を掴んでいた。

「それは誰だい?カリナちゃん。」とカシス。
「ん~とね、んとね、んとね、殺したい気分だったのぉぉ~~!!!ばっちいばっちい~~!!!」
カリナは生首をブンと投げ飛ばした。それは床に打ち付けられ、スイカのようにドチャッと割れた。

直後、レナックを除く3人の居る場所が、魔法陣で取り囲まれた。しかしこの魔法陣、四角い。

「エンカウントか。」とレナック。「ターン制のバトル、HPが表示され、尽きた者は、魔法陣に引き込まれ、この世界からBANされる。」
「知ってることをわざわざ解説してくれてどうも。」とゲラッチ。

[返信][編集]

37 :げらっち
2022/08/07(日) 15:28:52

RPG風バトルは、カシス&カリナの優勢であった。
それもそうだ。魔法陣内は彼らのホーム、正々堂々やる気などさらさらなかったのだから。

「盤盤盤盤俺野攻撃。盤盤盤盤俺野攻撃。」
「コンビネェショォン、アタァ~~ック!!!」
2人の一方的な暴力がゲラッチを襲った。ゲラッチは自ターンになるまで動けず、防御すらできず、ただ目を瞑って耐えている。
「ぐっ……!」だがゲラッチも気丈である。「効かないぞ、その程度かい?」
「うるさいのぉ~~!!」
カリナの激烈なキックが命中、ゲラッチは血を吐いた。
「ゲラッチ、HPが減っているぞ。このままだと不味い。俺を召喚しろ。」と、魔法陣の外に居るレナック。外部からの干渉はできない。
空中に表示されるHPは、カシス&カリナが9999、ゲラッチが164と、窮地であった。
「なあに、私のターンになりさえすれば、一発逆転さ。何しろ私はチートky……」
ここでゲラッチのターンに切り替わる。

「ショウタイムだ!」

「どうかな」とカシス。
魔法陣からジャランと鎖が伸び、ゲラッチの体を拘束した。ゲラッチが歯を喰いしばるや否や、肥大化したカシスの腕が、ゲラッチの腹部に強烈な殴打を浴びせた。
「ぐは!!」
「ターンなんて無視!!ずっと俺たちのターンだよぉ~♪」

ドゴォンと打撃音、鎖が破壊され、ゲラッチは崩れ落ちた。

HPが0になった。

「終わりだな。」
キャラキャラと笑うカシスとカリナ。

レナックは、くるりと背を向けた。「お前らがな。」

「ああ。」
ゲラッチは立ち上がった。
「終わりだよ。」

カシスとカリナは、ぽかんとしていた。
「は?……君のHPは0でしょ?」

ゲラッチの眼がギラリと光った。

「チート級ゲラッチワールド!!!!」

魔法陣が裏返り、真っ赤に染まった。炎が噴出し、ピエロとクラウンは業火に焼かれた。
「ギィヤァァァアアアア~~!!!!!!!!」

「馬鹿めが!!貴様らの虚を突くべく、HP表示に細工をしておいたのだ!!チートにはチートを!私のHPは∞、つまり貴様らはエンカウントした時点で、負けが決まっていたのだ!!!苦しんで、死ぬがいい!!!」

カリナはのたうち回り、カシスは跪いて、ゲラッチにすり寄った。
「助けてくれ……助けてくれ……」
「ほう、命乞いをするか。私は冷酷な男ではない。私に忠誠を誓い、メリルイ部の一員になるなら助けてやろう。私が世界を一統する手助けをするというのなら、生かしてやろう!!」

カシスは灼熱の地面に頭を擦り付け、呻いた。
「わかったー!!なんでもする!!たすけて!!!」

だがゲラッチは、
「やだね。」

ニヤリと、満面の笑みを浮かべた。
「私は冷酷な男だ。特に、荒らしに対してはな。荒らしに一片の情けもかけるか。地獄に落ちろ。」

「ひどいよーっ!!!」
カシスとカリナのHPが0になった。2人の亡骸は、炎と共に、魔法陣に吸い込まれていった。死体と魂さえも、この世界から抹消され、アク禁となった。

魔法陣は消え、ゲラッチはくるりと振り向き、その場を出た。
「仕事が終わった。」
「おい!俺の活躍が無かっただろ。」とレナック。

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38 :げらっち
2022/08/07(日) 15:31:03

真っ白い廊下を、2人の男が並んで歩いている。
1人はゲラッチ、そしてもう1人は、ネクタイをきっちり締めた、大柄な男性。
彼は真理雄。つまり荒らしをこよなく嫌う真理の英雄であり、つまりお偉いさんだ。

「お手柄だねゲラッチ君。あのカシス&カリナを永久アク禁にするとは。こちらとしても手間が省けたよ。」
「なあに、容易いよ。個人的な因縁の相手でもあったからね。それに、サクソフォーンには任せておけない。」
2人は歩きながら、握手を交わした。

廊下を抜けると、大きな円卓のある部屋に行きついた。
真理雄が椅子に掛け、ゲラッチがその対角線上に座った。
円卓の中央には、ワッフルが山のように積まれている。

「だが知っての通り、この真理類連邦には、まだ荒らしがゴロゴロいる。メテオ、ブレイザ、チャーミン、7ティーンなどだ。」
「7ティーンは悪い奴じゃない。」と、ワッフルをほおばりながらゲラッチ。「荒らし認定するのはまだ早い。あいつは追い詰められ、自暴自棄になっている。魔族の親類というだけで迫害を受けたのだから当然だ。懐柔し、仲間にできる。」
「レナックのようにか?」
真理雄は書類を綴りながら言う。
「私からしてみれば、あいつも荒らしの1人だ。何故君がいつまでも膝元に置いているか、理解できないというのが本心だよ。」
「では私も言うが、君も一部の荒らしと結託しているんじゃないかい?この連邦の均衡を保つために、毒をもって毒を制すという建前で。」とゲラッチ。
真理雄は書類から顔を上げずに、ニヤリと笑って言った。
「君こそ、改心した荒らしや魔族を引き込んで、謀反を起こそうという魂胆が見えてるぞ。メリルイ部長さん。」

ゲラッチは残るワッフルの欠片を呑み込んだ。少し大きかったようで、次の言葉を出すまでにタイムロスが生じた。
「ああ嫌だね。我らは保身ではなく、未来のために戦っているはずだ。そうだろう?魔法はやがて、至極一般的な物になるだろう。それを見越し、改革の準備がある。それだけだ。」

「未来とは、随分と不確定的だな。誰の未来だ?」と真理雄。

「世界の未来だとも。」とゲラッチ。

「はは、言ってくれるね。だがもし君が世界を荒らすと言うのなら、私は君を荒らしと捉え、それ相応の処分をする。覚えておいてくれ。」
真理雄は背中から生えている太い腕をチラつかせた。彼が処罰した「荒らし」の「魔族」から頂戴した、魔法の腕だ。

「ひゃ~、怖い怖い。」ゲラッチは両手を振った。
「せいぜい怖がっておけ。そうそう、ワッフルを食べたね?」
「ああ、こんなにあるんだから、良いだろ?」
真理雄はゲラッチの顔を見て、笑った。
「毒入りだよ。君なら食べるとわかっていた。君は今すぐに、7ティーンを討伐したくなるだろう。でなければ解毒剤は手に入らないのだからな。」
ゲラッチは諦めたように笑う。「やれやれ。」

[返信][編集]



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