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┗373.【小説】MOONLiT(61-64/64)
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61 :零
2024/03/19(火) 13:28:28
【#29 Rainbow】
「レイネ……なんだか目覚めが悪いよ……」
朝。珍しくレイネに起こされた僕は、ベッドで寝転んだまま言った。
「どうしたの?」
「んーとね……変な夢見た……」
「ゆめ?」
レイネがどさっ、と僕の体の上に乗って首を傾げる。
「うん。なんか……いや、何でもない」
レイネはきょとんとしている。
この夢のことは、言わない方がいい。そう思ったんだ。
朝食を済ませた僕らは、街外れの丘にやって来た。ここには父さんのお墓がある。隣にはリーフ爺さんもいる。
風が僕らを包み込む。父さんが抱きしめているみたいだ。
「わかれは、つらくない」
この丘は散歩の途中でよく来ていた場所だ。色んな人の温もりがあるから、僕はここが好きだ。
「そう。辛くないさ」
「でも、ちょっとさみしい」
「そう。ちょっと寂しい」
それから僕らは、父さんとリーフ爺さんに最近あった事を伝えた。タウルさんと一緒に料理をした事、レイネが初めて絵を描いた事。楽しかったって気持ち。気付いたらレイネの身長がすごく伸びてた事。いっぱい伝えた。そして、「また今度ね」と笑顔で告げて、僕らは次の目的地へ歩みを進めた。
「刹那に咲く花は」
「かぜのようにきよく」
僕らは手を繋いで、木漏れ日の街を歩いていった。
「記憶に降る雨は」
「キミのようにふかく」
森の奥の池にやって来た。
「さくら、いろがかわってる」
「花が散ったんだよ。桜ってのは儚いもんさ」
「もうさくらのはな、みられないの?」
「君は、そうだね」
池の水面は桃色に染まっていた。
「みんな、わたしのこと、わすれちゃうのかな」
「いつかはね。でも、僕は君の事、絶対に忘れない。忘れたくないから」
「やくそくして」
約束の時はお互いの薬指を合わせるって、小さい頃から相場が決まっている。
「約束しよう、レイネ」
「うん」
思えば、僕らは色んな景色を見てきた。そのどれもが輝いていた。レイネに会ってから、世界は虹色。
レイネと出会ってから一年が経つ。
僕は君を忘れない。
今日は、君との別れの日。
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62 :零
2024/03/19(火) 13:29:00
【#30 MOONLIT】
それは満月の夜の事だった。
街は暗く、月の光だけが僕らを照らす。
浜辺で僕らは手を繋いで、座って、寄り添って、時を待っていた。
波が街に近づいて、そうかと思うと遠のく。そしてまた、近づいてくる。それを延々と、誰に言われた訳でもなく、誰の為でもなく、ただ繰り返すだけ。僕らはそんな海が好きだ。
「て、あったかい」
レイネの桃色の唇は、かすかに震えていた。
「君の手も、あったかいよ」
レイネと二人きりで、昔話をしていた。
「一年前だね、君と出会ったのは」
「あのときは、こわかった。このまちも、すんでるひとも。でも、あなたといると、ふしぎとあんしんできた」
「僕も混乱してたさ。急に海がひかり出して、君が現れたんだから」
「おたがいさまだね」
レイネは今、どんな気持ちでここにいるのだろう。
「パン、とってもおいしかったって、つたえてね」
「あぁ。ルミンはレイネの事大好きだから、きっと喜ぶさ」
この街のみんなは、突然現れたレイネという存在を、優しい気持ちで受け入れてくれた。警吏の人はつんつんしてたけど。それでも、この街の人達には感謝してもしきれない。
「あれから、いろんなえをみた。どれもきれいで、やさしかった」
レイネと出会ってから、僕は絵描きである事に一層誇りを持つようになった。彼女は、僕の人生を変えた。
「わたしがあめのひにたおれたこと、おぼえてる?」
「もちろん覚えてるさ。あの時は心配して、自分を責めたりもした。けど、リーフ爺さんやクリスおばさんは僕らを助けてくれて、一緒に同じ時を過ごしてくれた。それだけじゃない。シャンクさんと一緒に釣りをした時や、スコルスさんと一緒にランテ国へ旅行に行った時だってそう。みんなに支えられたり、一緒に経験したりして、僕らはここまで生きてきたんだよ」
「そうだね」
波が段々と荒くなっていく。
「そろそろか、レイネ」
まるで海が怒っている様だ。
「うん」
突然、眩い光が海から溢れて、僕らを包んだ。僕は、反射的に目をつむって手で顔を覆った。
そして、光が弱まりまぶたを開けると、僕は目を疑った。
「レイネ。迎えだ。我々の元へ帰ろう」
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63 :零
2024/03/19(火) 13:49:43
野太い男の声だ。白く巨大な翼を生やした仏頂面の男がこちらを睨んでいる。
「掟を破った罪への罰は、今終わりを告げた。さぁ、この星から離れるのだ。まずは、記憶と翼をお前に還す」
僕は言葉が出なかった。この人は……あの時夢に出てきた……レイネの兄。
「わたし、もうかえらなくちゃ」
レイネとの別れ。最後の覚悟と精一杯の笑顔で、僕は答える。
「うん」
「さぁ、こちらへ来い」
レイネはゆっくりと立ち上がり、一歩一歩、記憶を噛み締める様に歩いていった。
レイネが男の側まで来ると、男は彼女の額に手を当てて、目をつぶって静かに息を吐いた。
すると、レイネの服の、大きく開いた背中から、左右に白い翼が、淡く神秘的な光を放って生えてきた。
「う……」
彼女は苦しそうだった。
翼が生え終わると、レイネは空中に浮いた。今にも消えてしまいそうな白い肌と亜麻色の長い髪が、ただ美しかった。
「レイネ、レイネ!」
僕は大急ぎで駆け寄った。レイネに最後に一言だけ、言いたかった。
「レイネ……」
彼女が僕の方に振り返った。サファイアの様な澄んだ瞳が僕の全てを包んだ。
「最後に、言いたかった。レイネ。愛してる」
これだけは言いたかった。やっと言えた。
「フィリオ、貴方は私にとって、太陽みたいな人だった。貴方は私の心に光を灯して、温かくしてくれた。私も、フィリオの事、愛してる。今まで、ありがとう」
震える彼女の声は、どこか大人びていた。
レイネの翼がはためき、風が吹く。
「愚かな地球人類よ。我々に触れるな」
男の声に、恐怖が背筋を伝う。
「貴様らが持つレイネの記憶も消す。地球への羨望と言う名の罪。その罰とはこの事だ」
男はそう言い残し、再び強い光が僕を襲った。
「レイネ……レイネ!」
叫んでも何も変わらなかった。
レイネは体を逸らし、まぶたを閉じ、飛翔した。
彼女は何も言わずに、母の様な月明かりに照らされていた。
気が付くと、そこにレイネの姿はなかった。
呆気ない最後だった。
これで良かったんだろうか。
胸の高鳴りがまだ収まらない。
僕はしばらく、月を眺めていた。今までと何ら変わりない、ただの満月だ。
どういうわけか、僕は何故ここにいるのか、よく分からなくなってきた。でも、今はもうちょっとだけ、このままでいたい気分だ。
あたたかな月の光が、この街と、海と、僕を照らした。
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64 :零
2024/03/19(火) 14:43:16
【Epilogue】
暖かい。と言うより、ちょっと暑い、かな。今日から僕は、日記をつけることにしたよ。と言うのも、明日は出発の日なんだ。長い長い、僕の旅。旅先で絵を描いて、人に売って、また別の場所に行く。最高の旅さ。
支度はもう終わっていて、後はもう寝るだけ。しっかり寝て、体力を付けなくちゃね。
そうそう。今日はみんなに出発前の挨拶をしに行ったんだ。最初はルミンのパン屋へ行ったんだけど、寂しさのあまりなのか「行かないでよ」とか言って、ルミンは泣き出してしまった。本当は、笑って見送って欲しかったんだけど。
次はシャンクさんとサニーのいる漁港。シャンクさんは「行け行け! それでこそ先輩の息子だ!」と言って背中を強く叩かれた。シャンクさんは常に酔っ払っているみたいな言動をする。いや、実際酔っ払ってる。サニーは自分の鼻をこすりながら「頑張ってね」と小さく言っていた。寂しいなら、寂しいって、言えばいいのにな。なんて。
その次は、クリスおばさんの家に行ってきた。クリスおばさんは笑顔で「行ってらっしゃい」とだけ言った。あの人の言葉って、やっぱり不思議な力があるように思える。あの一言だけで、何故か勇気が湧いてくるから。
その次はエリアスの図書館。何故かは知らないけど、エリアスに僕が今日出発することを伝えると「あらそうなんですね」と能天気に驚いていた。旅のこと、あらかじめ言っていたはずなのに。それからエリアスは「何故でしょう? わたくし達は、大切なものを忘れているように思えます」と言って首を傾げていた。忘れっぽいエリアスのことだから、また大したことじゃないんだろうな、とか思いながら、別れの挨拶を告げて図書館を出た。
次は、タウルさんの家。あそこって、ずっと獣の匂いがする。普段は狩りの仕事で大変らしいけど、今日は僕が挨拶周りをしていることを知ってて、待っていてくれたみたいだ。全く、タウルさんの噂を聞きつける能力は流石だ。タウルさんは僕に「成長したな」と言ってくれた。でも僕は、これからもっともっと絵の技術を磨いて、色んな人と会っていく。だから、まだ成長途中。
酒場に来ると母さんはすぐ、泣きながら「生まれてきてくれて、ありがとう」と言って、僕を優しく抱きしめてくれた。そして「行ってらっしゃい。私から言えることは、これだけよ」と言って、僕に別れを告げた。
最後に、父さんとリーフじいさんのいる所へ来た。ぼくは「行ってきます」と呟いた。涙が一粒、もう一粒と出てきた。ごめんね。笑顔じゃなくて。
そんなわけで、僕は明日旅に出る。どんな人に出会えるかな。どんな景色を見られるかな。スコルスさんにまた会えるといいな。なんて想像しながら、今はソワソワしている。
あ、そういえば、今いるこの僕の家に飾ってある二つの赤い薔薇の絵、一つは描いた記憶があるんだけど、もう一つは、いつ描いたのか思い出せない。と言うか、僕の画風じゃない。一体誰が描いたんだろう。そもそも、一年前くらい前の記憶から、なんか曖昧になっている気がする。よく分からないけど、何を忘れたんだか。大事なことだったような、気もする。
とりあえず、今日はもう寝る。大好きなこの街とも、しばらくお別れ。それじゃ、さようなら。ありがとう。おやすみなさい。
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