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376.【小説】愛と幻想のショートショート
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10 :零
2024/04/01(月) 22:46:44

【笑顔の写真】

 ある時代、人々は戦争をしていた。それは世界規模の大きな戦いで、星全体を火が覆い、悲鳴が聞こえない地は無かった程。

「マリア。心配しなくて大丈夫よ。きっといつか、全ては終わるわ」

 とある国の若い女とその娘のマリアは、地下のシェルターに避難していた。絶え間なく響く大きな爆発音に震えるマリアを、女はそっと抱いていた。

「お母さん、いつかって、いつ?」

「そうね……お父さんは、半年くらい経てば終わると言っていたわ」

「本当に?」

 今にも消え入りそうな声で、マリアは言った。

「お父さんの言うことが間違っていたこと、あったかしら?」

 女はそっと頭を撫でるような優しさで、マリアに問いかけた。

「ううん」

 地下シェルターには色んなものがある。ただ、減っていく一方なだけで。
 女は一つの機械を取り出して、マリアに言った。

「写真、撮りましょうか。思いきり笑顔で」

「笑顔、笑顔なんて……できない」

 母の提案にマリアは俯く。

「お父さんは、マリアの笑顔が見たいはずよ」

「そっか……そうだよね」

「マリア、私の真似をして。ほら」

 女はそう言うと、マリアにとびきりの変顔を見せた。

「んふふ」
 
 マリアの表情がだんだん明るくなっていく。
 そして女は、チェキカメラのレンズを自分達の方に向けて、シャッターを切った。
 出てきた写真には、二人の笑顔が確かに写っていた。

「お父さんが帰ってきたら、見せてあげましょうね」

「うん」
 
 ヒュウ……と音がする。爆弾の落下音だ。しかも、今まで落ちてきた爆弾よりもずっと大きい、突風のような落下音。
 間もなく、その落下音が途絶えると、それは全てを消していった。人も、街も、自然も。
 結局戦争は四年間続き、人類はその人口の四分の一を失うこととなった。
 そして、戦争から千年の時が経った。

「おい! この下、なんかあるぞ!」

 少年と少女が野原で遊んでいると、少年が何かを見つけた。

「本当だ! 階段がある。地下に続いてるみたい……」

「ちょっと探検してみようよ!」

「え、ちょっと!」

 一人の少年が発見した階段を勢いよく駆け降りる。少女は不安そうになりながらも、それに着いていった。

「ん? なんか踏んだぞ」

 少年が闇の中に一歩を踏み出したその時、彼は足元の薄い何かに気付く。
 彼は足を離しそれを手に取る。

「写真……?」

「何か落ちてたの? ちょっと見せてよ!」

 少女は一気に階段を降り、少年と共に写真を見る。

「笑ってる。親子の写真だ。幸せそうだね」

「そうね。幸せそう」

 そう言って二人は顔を見合わせ微笑んだ。

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