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376.【小説】愛と幻想のショートショート
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11 :零
2024/04/07(日) 17:58:42

【完璧人間】

「ついに……ついに完璧な人間を作り上げたぞ……!」

 とある研究所で老いぼれた博士が少年の様に目を輝かせて言った。その瞳には培養ポッドの中で眠る赤子の姿が映っていた。
 
「これは……世紀の大発明じゃ!」

 博士は暗く広い研究所の中で、狂った様に笑った。
 21XX年、人類は人工的に人間を作り出すことに成功した。赤子は「完璧」と言う意味の「perfect」から頭文字のPを取って【P-01】と呼称された。赤子は遺伝子工学の粋を集め作られ、筋肉や皮膚、脳に至るまで事細かくデザインされたそれは、まさに完璧な人間だった。
 そして赤子は世を忍ぶため【チャーリー】と言う仮の名前を与えられ、人工的に作られた存在である事が世間にバレない様生きる事となった。
 赤子はすくすくと成長し、十歳の頃にはアメリカの有名大学を主席で卒業、十五歳の頃にはオリンピック選手として活躍し、男子100mで見事金メダルを獲得した。十八歳の頃からは経営者となり、一躍大企業の社長となった。二十歳の頃には俳優デビューし、人気スターの仲間入りを果たした。さらにオンラインゲームのトップランカーでもあり、人々を爆笑の渦に巻き込むコメディアンでもあり、世界を魅力する歌手でもあった。
 才色兼備、非の打ち所がない彼は、世界中から好かれ、【完璧人間】と呼ばれるようになった。
 しかし彼にはたった一つだけ悩みがあった。それは、「普通になりたい」と言うものだった。産まれた時から神童と呼ばれ、もてはやされ続けてきた彼は、周囲の人々からのプレッシャーが何よりも苦しかったのだ。
 ある日チャーリーは全国ツアーの途中(歌手活動の一環)で、ステージの上で突然歌うのをやめて、泣き出してしまった。
 それから彼は歌手活動を始めとしたありとあらゆる活動を休止し、自分自身のメンタルを回復するため、精神科に行くことになった。
 精神科医はチャーリーの容態を診てこう言った。

「なーんだ。【完璧人間】なんかじゃないじゃん」

 チャーリーの容態をインターネット上の人々は強く非難した。「【完璧人間】失格だな」「政治家にでもなれば世界は平和になるのかなーなんて思ってたけど、これじゃ期待して損した」「完璧野郎が鬱だなんて滑稽」「調子に乗るからこうなるんだ」「完璧野郎!死ね!」
 彼らの投稿を不意に目にしたチャーリーは、全てを捨てて「ただの一般人」として生きる事を決意した。
 サラリーマンとして働き、たまにゲームを嗜み、たまに同僚とカラオケに行く。ごく普通の生活。
 彼の決断に世界は混乱したが、彼にとってはこれが「完璧」な人生だったのだ。

「実験は失敗じゃったか……いや、むしろ成功と言うべきか……」

 暗く広い研究所の中、そんなチャーリーの姿をモニター越しに見た博士は優しくそう言った。

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