スレ一覧
┗
376.【小説】愛と幻想のショートショート
┗15
15 :零
2024/09/03(火) 19:04:34
【僕の仕事はカウンセラー】
僕はこの病院でずっと働き続けている。病院のお仕事と言っても色々あるけど、僕はお医者さんや看護師さんではなく、患者さんと対話するカウンセラーというお仕事をしている。他のみんなと一つ違うのは、住み込みで働いているということ。ちょっと不思議だよね。僕もどうしてなのかはよく分からない。
病院はとても広く綺麗で、一緒に働いている人達はみんな優しくて、非の打ち所がない環境。毎日とっても楽しくて、幸せをいつも感じてる。
毎週土曜日と日曜日はエージェントさんから外出許可が出る。お休みの日だ。そうそう、僕の行動や衣食住に関しては、全部エージェントさんが管理している。でもそれって、裏を返せば楽ってことだよね。話は戻るけど、お休みの日はいつも同じ散歩道を通って、同じレストランでご飯を食べる。変化は無いけど僕はこの環境で生きる事に慣れてるし、この環境を変えたいとも思わない。エージェントさんから「あまり遠くへ行くな」って言われてるから、行きたいと思ったとしても行けないんだ。でも次のお休みの時、ちょっと違う道を歩いてみたいと、多分初めて思った。エージェントさんから「新しい刺激を受けてみないか」って言われて、遠くへ行く許可を出してくれたから気になったんだ。こういうのは「挑戦」って言うんだよね。なんだか人生で初めてする気がするよ。昔のことはよく覚えてないけどね。
僕は休みの日を心待ちにしながら、ずっとずっと患者さんをカウンセリングし続けた。患者さんから聞く話は色々あって、最近の病状の事、趣味の事、最近特に面白いのは、外の世界の事。海とか山とか、行った事ない場所の話は、想像するだけでワクワクしてくる。今までは行く気になれなかったけど、今は行きたくてたまらない。明日はついにお休みの日、たくさん楽しむんだ。
カウンセリングの時間はあっという間に過ぎていった。今日は待ちに待ったお休みの日! 僕は胸の高鳴りを押されられずに、朝早くから急いで外出した。まずは山を見に行った。とってもおっきい緑色! 登山してみたいと思ったけど、今日は沢山巡るからそんな時間は無かった。その代わりロープウェイで頂上まで上がった。上からの景色は圧巻だった。その次は海。とっても広い青色! 誰に言われた訳でもなく、誰の為でもなく、ただこっちに近づきたり離れたりする波の音を聞きながら、ひたすらに水平線を眺めていると、自分がちっぽけな存在だと言うことに気付かされる。世界はこんなにも面白いんだって、感動した。お昼はいつもと違うカフェでご飯を食べた。いつもレストランで食べるご飯とは全然違ってびっくりした。午後はいつもと違う街を歩いて帰った。沢山歩いて今までに無いくらい疲れたし、知らない事がたくさんあり過ぎて、僕の脳みそはパンクしそうだったけど、とっても楽しかった。
病院へ帰ると、エージェントさんは、僕の知らない男の人達と変な話をしていた。刺激がどうだの、実験がどうだの、自我がどうだのって、僕の事を話しているみたいだけど、結局なんだかよく分からなかった。そしてエージェントさんは僕に「このヘルメットを被ってくれないか」と言って、面白い形をしたヘルメットを差し出した。なんだか見覚えがあるような無いような、不思議な感じ。僕はこれも新しい刺激なのかなと思って、被ってみる事にした。
う、なんだこれ。
変な感触。
気持ち悪い。
脳みそが溶けそうだ。
なんだ?
あれ?
僕今日何したっけ?
僕って昨日は何してたっけ?
面白い?
面白いってなんだ?
はぁ……
頭が真っ白になる……
心地いい……
……
[
返信][
編集]
[
管理事務所]