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376.【小説】愛と幻想のショートショート
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16 :零
2024/09/03(火) 19:05:07

 僕はこの病院でずっと働き続けている。病院のお仕事と言っても色々あるけど、僕はお医者さんや看護師さんではなく、患者さんと対話するカウンセラーというお仕事をしている。ただ、他のみんなと一つ違うところがあって、それは住み込みで働いているということ。ちょっと不思議だよね。僕もどうしてなのかはよく分からない。
 病院はとても広く綺麗で、一緒に働いている人達はみんな優しくて、正に非の打ち所がない環境。毎日とっても楽しくて、幸せをいつも感じてる。
 毎週土曜日、日曜日は外出許可が出る。お休みの日だ。その日になると、色んな散歩道を通って、色んなレストランでご飯を食べる。外の世界では人との関わりはほとんど無いけど、僕は居心地が良いここの人間関係に慣れてるし、エージェントさんから「外の人とは関わるな」と言われているから、関わりたくても関われないんだ。でも次のお休みの時に、外の世界で友達を作ってみたいと思った。僕は友達が沢山いる。でも、病院の人達だけ。患者さんはあくまで患者さんだから、友達じゃない。けど、ある日エージェントさんが「患者さんの中で貴方と友達になりたいと言ってきた人がいる」と話してくれた。それで今度のお休みの日に、その患者さんと遊ぶ事になった。エージェントさんから「新しい刺激を受けてみないか」って言われて、友達を作る許可が降りたから、気になったんだ。こういうの「挑戦」って言うんだよね。人生で初めてする気がするよ。昔のことはよく覚えてないけどね。
 僕はお休みの日を心待ちにしながら、ずっとずっとずっと、患者さんをカウンセリングし続けた。患者さんから聞く話は色々あって、最近の病状の事、趣味の事、最近特に面白いのは、思い出話。友達と遊んだ時の記憶を話してる患者さんは、とても生き生きとしていて、こっちもワクワクが止まらなかった。今までは外の世界の人と関わりたいとは思わなかったけど、今は色んな人に会いたくてうずうずしてる。
 カウンセリングの時間はあっという間に過ぎていった。今日は待ちに待ったお休みの日! 待ち合わせ場所に着くと、とてもおしゃれな女の患者さん(もう友達、でいいのかな)が立っていた。それから二人で色んな場所を巡った。ショッピングモール、神社、駅、公園……一瞬だった。友達は「今度は私の友達も紹介するね」と言って、お互いの電話番号を交換してその日は終わった。それからお休みの日になると、いつもその友達と遊んだ。電話でしか話した事なかった友達の友達とも遊んだ。どんどん輪が広がっていって、本当に楽しい日々を過ごした。
 友達と仲良くなってきたある日、エージェントさんは僕の知らない男の人達と変な話をしていた。刺激がどうだの、実験がどうだの、自我がどうだのって、僕の事を話しているみたいだけど、結局なんだかよく分からなかった。そしてエージェントさんは僕に「このヘルメットを被ってくれないか」と言って、面白い形をしたヘルメットを差し出した。なんだか見覚えがあるものだった。あれ、なんか、これについてはとっても嫌な思い出がある気がする。「嫌だ。被りたくない」と僕は言った。するとエージェントさんは「そうか。お前の深層意識の中に蓄えられた記憶が、少しずつ表に出てきているのだな。まぁ良い。いずれお前は役目を終える」と言って、無理やり僕にそれを被せようとした。僕は必死に抵抗した。抵抗したけど、無理だった。
 う……
 あ……
 忘れたくない。
 みんなの事を。
 い、痛い。
 頭が痛い!
 こんなのって……
 嫌だ……
 ……

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