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376.【小説】愛と幻想のショートショート
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2 :零
2024/03/20(水) 20:38:30

【告白】

 花は人の心を表す。喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも。そして花は、人の想いをドラマチックに描いてくれる。私はこの小さな町外れの花屋をかれこれ十年、此処で切り盛りしている。
 午前九時三十分。天気、晴れ。窓の外に咲いている桜を眺めて、思わず仕事のことを忘れていたその時だった。

「すいません、今日、開いてます?」

 尋ねてきたのが若い男だったのに気がついた刹那、私は店のドアプレートが「close」のままになっているのに気が付いた。

「あ…! すいません、もう開いてますので。いらっしゃいませ」

 男は店に入るとすぐ、少しドギマギした様子で私にこう話した。

「あの……実は、今日で丁度、付き合って三年になる人がいるんです。今日その人に、プロポーズ……したくて、何かいい花があればと思って来てみたんですが……」

 プロポーズに花を渡す。実にベタだが、愛を伝えるためには花は最も適していると言える。想いのこもった花は、何よりも魅力的に見える。

「そうだなぁ……どういうのが良いかな……」

 男は暫く悩んでいると、店の端の方にひっそりと佇んでいる一輪の薔薇に目がついた。

「なんでだろう、この花だけは、他のどの花よりも魅力的に、輝いて見える…なんというか、今の僕の気持ちを表しているみたいで……」

 男はその薔薇に一目惚れをした。

「よし、これ、下さい」

「お買い上げ、ありがとうございます」

 私は男が選んだそれを丁寧にラッピングした。男の想いがこもったそれは、どこかいよいよ想いを伝える覚悟を決めたようで、より美しく見えた。

「これで、ようやく彼女に想いを、伝えられる気がします。それじゃ、ありがとうございました」

 男が手にしたのは、情熱的で、純粋な赤い薔薇だった。花言葉は、

【あなたを愛しています】

 午後ニ時四十分。天気、曇り。春の涼しい風に吹かれて宙を舞う桜の花びらは、儚くも美しい。

「いらっしゃいませ」

 今度のお客は朝来た男と同じくらいの歳の若い女だった。

「私、今、彼氏がいるんです。かれこれ三年くらい、ずっと付き合ってるんです。それで、彼にどうしても伝えなくちゃいけないことがあって、探してる花があるんですけど……」

 付き合って三年。さっきの男の彼女だろう。お互い、偶然同じタイミングで花を贈って想いを伝えたい、なんて、これほどロマンチックな事はない。
 女は、既にどの花を贈るか、きっぱり決めているようで、店を見回して、御目当ての物を探していた。しかし、その女の目は、何処か切ない目をしていた。

「あ、あった。これ、下さい」

 女が手に取ったのは、男と同じ、一輪の薔薇だった。しかし、それは赤くはなかった。

「あの、ラッピングなんですけど、この手紙、つけてください。口では、言いにくい事があって。お願いします」 

 口では言いにくい事。私は一瞬疑問を抱いたが、その疑問は、女が選んだ花をみればすぐに解決した。
これは、ロマンチックというには余りにも残酷すぎたのだ。

「お買い上げ、ありがとうございました」

 花は人の心を表す。喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも。そして花は、人の想いをドラマチックに描いてくれる。たとえそれが、どんな想いでも。女が手にしたのは、太陽のような黄色い薔薇だった。花言葉は、

【別れよう】

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