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┗378.【小説】キミとワタシの天の川物語(1-20/33)

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1 :零
2024/04/01(月) 22:50:23

西暦2150年、地球。星立第七中学校に通う一年生の主人公[月夜詩織]は、密かに同級生の男子、[日向霧彦]に淡い恋心を抱いていた。詩織は霧彦に告白するため、「今度の冬休みに銀河鉄道に乗らないか」と、霧彦をデートに誘う。二人は[青春十八万光年きっぷ]を手に銀河鉄道[あまのがわものがたり号]に乗って人生初の星間旅行へ旅立つ。

※児童文学です。

【目次】
旅立編>>2-7
電子編>>8-11
音楽編>>12-15
大海編>>16-19
火炎編>>20-23
美術編>>24-27
自由編>>28-31
銀河編>>32-33

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2 :零
2024/04/01(月) 22:57:16

【恋の始まり】

 白く冷たい雪が、淡々と降っている。誰かにそう言われたわけでもなく、誰かのためでもなく、ただ、静かに降り続けている。
 西暦2150年、12月17日。空は真っ暗で、いくつもの星が輝いている。

「123番線、列車が、参ります」

 駅員さんのアナウンスがホームに響く。
 シュウ、シュウという音が、だんだんと近づいてくる。汽車が来るんだ。
 私、[月夜詩織]。星立第七中学校に通う1年生。

「詩織、寒くないか?」

 隣にいるクラスの同級生[霧彦くん]が、私にそう話しかける。

「ちょっと寒い」

 私は白い息を吐きながら、微笑んで答えた。
 今日は、そんな霧彦くんと一緒に、旅行に出かける日。
 私と霧彦くんは付き合ってないけど、これもデート、って言うのかな?
 ともかく、なぜこんなことになったのかというと、話は2か月前にさかのぼる。
 家でピアノの練習をしていた私は、いつものようにあることを考えていた。

「いいなぁ、[銀河鉄道]……私も乗ってみたいなぁ……」

 それは、銀河鉄道に乗って旅行すること。地球を飛び出して、いろんな星を巡ることができる銀河鉄道は、私だけでなく、学校のみんなが、一度でいいから乗ってみたいと憧れるほどだ。
 だけど、チケットを買うにはかなりのお金が必要で、みんな内心「どうせ乗れない」「大人になるまで無理」と諦めている。
 でも、私は銀河鉄道に乗るという思いに関しては、このクラス、いや、この学校の中で一番の情熱を持っている自信がある。
 現に、小学生の頃からずっと貯めてきたおこづかいは、そろそろ銀河鉄道に乗るためのチケット[青春18万光年きっぷ]を買える金額に達する。
 私のお父さんとお母さんは毎日仕事で忙しいし、今度の冬休みにでも、一人で優雅に銀河の旅を楽しもうかなー、なんて思っていた。でも次の日の朝、学校で私の斜め前の席に座っているクラスメイトの真麻と、椅子に座りながら話していたら、とんでもない話が耳に入ってきた。

「そうそう、詩織知ってた? 霧彦くんがね、今度の冬休みに銀河鉄道に乗って旅行しに行くんだって!」

「え、えぇ!? 本当に!?」

 私はあまりの驚きに口を押さえ、目をパッと開いて叫んでしまった。

「ほんとほんと! 私もびっくりして、最初は信じられなかったよー!」

 霧彦くんは、私と同じ1年生なのに、学校中の人気者。誰にでも優しくて、テニスが得意で、頭が良くて、かっこいい、非の打ち所がない、みんなの憧れ。
 私は霧彦くんと同じクラスになってから、少しだけ話したことがある。私がハンカチを落とした時、拾ってくれた。その時も、霧彦くんの全身から溢れ出るオーラが眩しくて、なんとなくだけど、あんな人と付き合えたらいいな、なんて思うけど、私には、手の届かない存在。

「でさ、確か、詩織も銀河鉄道に乗るために、お金貯めてたんだよね?」

「そ、そうだけど」

「霧彦くんと一緒に旅行できたりしてねー」

 そんな何気ない真麻の一言を聞いた時、ドッ、と心臓が強く動くのを感じた。まさか、そんなこと、ありえない……と思いつつも、もしかしたらと思うと、胸の高鳴りが止まらなかった。

「え、ど、どうしよう……」

「どうしようって、本気にしてるの?」

「え、い、いやそんなわけでは……」

 まずい! と思った。自分が思ったより霧彦くんのことが好きなのかもしれないと思うと、動揺を隠せないのだった。

[返信][編集]

3 :零
2024/04/01(月) 22:57:33

「分かった。私は付き合ってる人いるし、詩織の恋のお手伝い? しちゃおっかな」

「え? それってどういう……」

「私が霧彦くんに『詩織も同じ日に銀河鉄道に乗るみたいだよ』って言ってみるからさ、上手くいったらまた言いにくるね」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」

 私は思わず真麻の腕を掴んだ。別に真麻はどこかへ行くわけでもないのに。

「あのねー詩織。人生、時には思い切りってのが必要なのよ」

 偉そうに言う真麻。

「えぇ……そんなこと言ったって、真麻も彼氏いたことないでしょ?」

「詩織、話聞いてた?」

 私はさっきの真麻の発言を思い出した。

「え!」

「まぁ……1か月前くらいからかな。隣のクラスの翔平って人とね」

 真麻とは保育園の頃からいつも一緒で、部活も同じ吹奏楽部で、ずっと変わらない友達だと思っていたのに、私の知らないところで、いつの間にか真麻は大人になっていってしまったんだと痛感して、私はため息をつく。とにかくショックだった。

「そ、そうなんだ……良かった、ね」

 私が悲しい気持ちを抑えて無理やり笑っていると、真麻は言った。

「この際はっきりしてみたら? 詩織が霧彦くんのことどう思ってるのか。私と詩織はいつも一緒だったでしょ? 私に彼氏がいるんだからさ、きっと詩織にも、ね?」

 ハッとした。そ、そうか。真麻は私の気持ちを分かった上で、真麻なりに私を勇気づけてくれてたんだ……よし。思い切ってみよう、と張り切って私は言った。

「わ、私は……霧彦くんのことが……好き。だから……一緒に銀河鉄道に乗って、旅に出たい」

「よーし! はっきり言えて偉い! そんじゃ早速、あとで霧彦くんに伝えてくるね!」

 と、真麻がそう言ったところで会話は終わった。なんだか大変なことになっちゃった気がした。でも私は、霧彦君と一緒に銀河鉄道に乗りたいと思う、その気持ちを信じてみることにした。
 それから、私が霧彦くんとデートすることになったのは、それから一日経ってからのことだった。

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4 :零
2024/04/01(月) 23:01:42

【旅立ちのホーム】

 私は昨日と同じ時間に起きて、同じ時間に家を出て、同じ時間に学校に到着した。そんな私の、いつもと変わらない日常の中に、霧彦くんがいたらなぁ……なんて想像しながら私は教室に入った。

「あ! 詩織おはよう! ってか……聞いて」

 私が教室に入ってくるや否や、何やら神妙な面持ちで真麻が言った。

「真麻、そんな顔してどうしたの?」

 すると真麻は、私にじりじりと寄ってきた。

「なんとね……霧彦くんに詩織のことを言ったらね……」

 まさか! と思った。そしてそのまさかは見事に的中した。

「霧彦くんが『これを詩織にあげてきてくれ』って言って、この紙を渡されたんだけど……」

 真麻は一つの紙を見せ、ひそひそと私にこう言ったのだった。

「これ、霧彦くんの[連絡コード]。今日の夜、ここに書いてある時間に詩織と電話したいって」

「え、え、え」

 あまりにも驚きすぎて言葉が出なかった。
 連絡コードというのは、私たちが普段使っている[Fギア]に登録する連絡先のこと。Fギアっていうのは、昔で言うところのスマホみたいなものかな。

「霧彦くんと……電話……?」

 どうしよう。ちょっとしか話したことないのに。

 どうしよう、どうしようと思っているうちに、いつの間にか学校は終わって、電話の時間になってしまった。

 私はベッドの上で、水色の淡いピンク色のFギアを握りしめながら震えていた。
 真麻……いや、霧彦くんからもらった紙を見ると「電話待ってる」の文字が目に入った。

「こ、これ……私から電話しなきゃ……だよね?」

 思わず独り言を呟いた。破裂しそうな胸の鼓動を抑え、私は自分を落ち着かせるために言葉を繰り返した。

「人生、時には思い切りが必要。人生、時には思い切りが必要」

 真麻の口から出た何気ない言葉。でも、この言葉は今の私にとって大切なんじゃないかと思った。

「よし……」

 心の中で「やるぞ!」と気合を入れ、私は霧彦くんに電話をかけた。
 シャランランラン……シャランランラン……と発信音が2回鳴ったあと、爽やかで大人びた、あの声がした。

[返信][編集]

5 :零
2024/04/01(月) 23:01:54

「もしもし? 月夜?」

 私を呼ぶ声。間違いなく霧彦くんの声だと思った。

「え、えっと……私……月夜詩織……です」

 うっかりドギマギして、霧彦くんがとっくに知ってるようなことを言ってしまった私に、霧彦くんが言葉を返した。

「知ってるよ」

「あ、そ、そう……だよね」

「月夜、なんか……緊張してる?」

 私の動揺が電話ごしにバレてしまった。私は必死に言葉を紡ぐ。

「あ、いや、えっと……」

「別に大切な話とか重苦しい話をするつもりはないんだ。月夜も銀河鉄道に乗るんだよね? 僕、銀河鉄道に乗るのが夢だったんだ」

「え? 本当に!?」

 その時、緊張が吹っ飛んだ気がした。霧彦くんも私と同じ夢を持ってたことが、とにかく嬉しかった。

「本当だよ。今日は月夜と一緒に銀河鉄道について話ができたら良いなーなんて思っていたんだけど……いいかな?」

 これは本当に現実なの? と自分を疑ってしまった。

「そ、そうなの!? え、話したいです話したいです! 良いですよね銀河鉄道! おしゃれで、カッコよくて……」

「そうそう! 200年前の汽車みたいな、レトロな見た目がとにかく最高だよな!」

 いきなり霧彦くんのテンションが高くなった。この時私は気づいた。私も霧彦くんも、同じ銀河鉄道オタクなのだと。
 それから私たちは、銀河鉄道について軽く2時間は喋りまくった。これ以上ない、素敵な時間だった。
 私が霧彦くんに「またね」と言って、霧彦くんが私に「うん。また学校で話そう」と返して、電話は終わった。
 雲ひとつない晴れ渡る空に浮かんでいるような気分だった。雲だらけで灰色だった私の人生に、太陽が灯った。ワクワクして寝れないなんて、初めての感覚だった。
 それから、私たちは学校の休み時間に会って話をしながら、銀河鉄道での旅行の計画を立てた。
 旅行の計画を立てるのは楽しかった。色々見たいところがありすぎて、大変でもあったけど。
 そして、私たちは無事に計画を立て終わり、冬休みに入って、今に至る。
 たった今、シュ、ゴ……シュ、ゴ……とやってきた汽車が、私たちの目の前で止まった。

「わぁ……これが本物の……」

「そうだね……僕らは今から、この[あまのがわものがたり号]に乗って、旅に出るんだ」

 あまのがわものがたり号は、この黒い銀河鉄道の名前で、豪華なサービスとおしゃれな内装が特徴の観光列車。
 この列車は、他の観光列車とは違って、途中の駅で降りて観光ができる。
 小さい頃から憧れ続けてきたものが、今目の前にいるなんて……感動で涙が出そう……!

「それじゃ、乗ろうか」

「うん……!」

 たくさんの星が輝く夜。私は、ガラーッと開いたドアの向こうへ、一歩足を踏み出した。
 汽車の中は暖かくて、赤いふかふかの席が並んでいる。
 私たちの旅が、いよいよ始まった。

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6 :零
2024/04/02(火) 12:15:36

【夜の女王】

 私たち二人は興奮を抑えきれないまま、向かい合って席についた。

「あと5分くらいで出発だから、ゆっくりしていようか」

 霧彦くんがFギアに表示された時計を確認して言った。

「うん」

 笑顔で私は返した。
 実は霧彦くんに秘密で、私はもう一つ計画を立てている。それは、旅の途中、霧彦くんに告白すること! いやー、我ながら思い切ったなぁ、と思う。けど、人生は時には思い切りが必要だって、学んだから。
 霧彦くんはぼんやりと窓の外を見ている。私はそんな霧彦くんを見ている。そうしていると、謎の声が車内に響き渡った。

「この度は、銀河鉄道あまのがわものがたり号にご乗車、誠にありがとうございます。わたくしは車掌の[スチーラ]と申します」

 その声は女性とも男性とも言える、不思議な声だった。

「車掌さんか……なってみたいなぁ」

 私はポツリとつぶやく。

「月夜って、将来は車掌になりたいの?」

 霧彦くんが興味ありげに私の顔を見て言った。

「だって、毎日銀河鉄道に乗れるでしょ? 最高の職業だとは思わない?」

「なるほどなぁ」

「そう言っていただけるのは嬉しいですが、車掌も楽な仕事ではございませんよ」

 列車の中央から、あの中性的な声がした。

「えっ?」

 声のした方向に振り向くと、そこには一人のロボットが、私たちを見て立っていた。

「あなたが……スチーラさん?」

「はい。そうです」

 スチーラさんはそう言って、頭を深く下げた。
 この人のように、この世界にはたくさんの種類の人がいる。
 昔、地球の人々は、色んな星の生き物と仲良くなった後、その星々にいるみんなをまとめて[人]と呼ぶことにした。
 今、地球には人間以外にも色んな人が平和に暮らしている。これも、昔の人たちのおかげ。

「車掌さんって、素敵な仕事ですね。こんなかっこいい銀河鉄道に、いつも乗っていられるし」

「ありがたいことに、銀河鉄道は学生たちの憧れの一つ、と聞いております。ですが、列車の安全な運行を守る車掌という職業は、決して簡単なものではございません。車掌になりたいと言うなら、お勉強を頑張らなければなりません」

「う……勉強……」

 そ……そうだよね。車掌さんになるためにも、勉強しなくちゃいけないよね。よし、私、頑張る。

「月夜ならできるよ」

 心の中で張り切ったそのとき、霧彦くんの励ましが自分の胸に刺さった。あぁ、なんて優しいんだ……霧彦くん。

「それでは、この列車はまもなく発車いたしますので、ごゆっくり、銀河の旅をお楽しみください。それでは」

 タタタッと先頭の車両へ向かって、スチーラさんは急いで走っていった。
 プォー、と汽笛が鳴る。窓の外はまだ雪が降っている。

「お、いよいよ出発だね」

 霧彦くんの笑顔が眩しい。

「うん……! なんか……感動して泣いちゃいそう……」

「泣くと窓の外が見れないよ」

「うん……そうだね……」

 いつの間にか、泣き出していた自分がいた。なんでだろう。こんなに幸せなのに。
 シュゴ、シュゴ、と、ついに列車が動き始めた。

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7 :零
2024/04/02(火) 12:15:51

「わぁ……ねぇ! 霧彦くん! 浮いてる、浮いてるよ! 列車が!」

 窓から見える景色が、どんどん空へと上がっていく。
 銀河鉄道は、宇宙にいる間、線路の上を走らない。昔の列車とは全く違うものなんだ。

「本当だ……! これが本物の銀河鉄道なんだ……」

 霧彦くんと私は、夢中で窓の外を見ていた。
 やがて街は、光の点の集まりになって、キラキラと輝いていた。

「この列車は、まもなく月軌道上に突入いたします。右手をご覧ください……」

 スチーラさんのアナウンスを聞いて、私たちは外を見る。

「すごい……月だ……」

 丸くて、半分くらいが影に隠れた大きい月が、目の前にあった。

「こんなに近くで見られるなんて……そうだ、写真撮っておこう」

 霧彦くんはそう言ってFギアを取り出した。

「月夜、こっち向いてよ」

「えっ?」

 気がつくと、カメラのレンズは私の方を向いていた。

「月夜と月を一緒に撮っておきたいんだ。苗字に入ってるのは、何かの縁だろ?」

「なるほど……確かに」

 写真に写るのはそんなに好きじゃないけど……霧彦くんが撮ってくれるなら……嬉しい。

「それじゃ、いくよ」

 パシャ、とカメラの音がした。なんだか旅行らしくなってきたなぁ。

「古来より、月は女性のシンボルとされてきました。月は無慈悲な夜の女王、と表現されることもあったほどでございます」

スチーラさんのアナウンスが響く。

「月は女性のシンボル……星座もそうだけど、星にはそれぞれ意味があるんだね」

「物語のない星なんてないよ」

「素敵なこと言うね……」

 サラッとおしゃれな一言が言える霧彦くん、素敵だなぁ……と思う。

「そういえば、月夜は好きな星とか、ある?」

「好きな星か……私は……」

 それから私たちは、二人で星について夢中になって話した。いつの間にか、寝てしまうまで。

「まもなく列車は……[電子星レプト]に停まります……」

 この声、スチーラさんだ。

「ようやく起きたみたいだね。ちょうどよかった。もうすぐ着くよ」

 この声は……霧彦くん。

「う……私、寝ちゃってた?」

 どうやら私は、席についたまま寝ていたらしい。

「実は僕も、さっきまで寝ちゃっててさ……寝る前にベッドがある寝台車に行けばよかったんだけど……ごめんね」

「いやいや、私も会話に夢中になっちゃって忘れてて……こちらこそごめん……」

 そんなことを言っているうちに、列車は最初の駅に停まった。

「銀河の旅を……ごゆっくりお楽しみください……」

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8 :零
2024/04/02(火) 12:46:42

【電子の星】

 スチーラさんのアナウンスのあとまもなく、電子星レプトの駅に到着した私たち。
 外は昼間。列車から降りると、そこは大きなホームだった。

「すごーい……霧彦くん見てよ! あんなに天井高いよ!」

「人も沢山いるね……! よし……」

 霧彦くんはFギアのマップアプリを開いた。
 ここはなんといっても、銀河一のテクノロジーが売りの星。Fギアだって、元々はこの星で生まれたんだ。

「よし、ここから[テレスコープタワー]へは……」

「ちょっと霧彦くん……地図見ながら歩くとぶつかるよ?」

 私がそう言ったとたんに、ゴン! と、にぶい音がした。

「あら、旅人さん? 前には気をつけてね」

 霧彦くんとぶつかった人が優しくそう言った。

「あぁ……すみません……」

「霧彦くんにも、そういうところあるんだね」

「そういうところって?」

 頭を押さえながら振り向く霧彦くんに、私は答えた。

「抜けてるところ」

 それから私は、霧彦くんと一緒に、高くてピカピカ光る建物の間を通り抜けながら、旅行の計画通りにテレスコープタワーにたどり着いた。
 テレスコープタワーには、私たちが住むこの天の川銀河の中で一番大きな天体望遠鏡があって、この星では最も有名な観光名所になっている。

「うわぁー! おっきい……」

 私はタワーを見上げて口をポカンと開ける。

「高さは1000メートルあるみたいだね。こんなにおっきいものを見たの、初めてだよ……」

「私も……さ、早く入ろ!」

 霧彦くんの手を私は引っ張る。

「ちょ、ちょっと待って! 入場料金払ってからだから」

 そうだった! すっかり忘れていた。

「あちゃー、抜けてるのはお互い様……か」

 入り口で入場料金を支払い、タワー内のエレベーターに入ると、爽やかな男性の音声ガイドが、私たちにこのタワーについての説明をした。

「この度はご入場、誠にありがとうございます。このテレスコープタワーは、2130年に建設されました。210階にある超大型天体望遠鏡は、観光名所として親しまれております」

「210階? そんなにあるの!?」

 私が驚いて言う。

「はい。210階ございます」

「えっ、会話できるの!?」

「はい。私の声は事務室から生で放送しております。私は正真正銘の人です」

「僕、完全に録音だと思ってた……」

 霧彦くんもそう思ってたんだ……なんだか私たちって、似てるかもしれない。特に抜けてるところ。
 しばらくすると、チン、とエレベーターの音が鳴って、最上階の210階に着いた。
 私たちはアナウンスの人に別れを告げて、エレベーターを出た。

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9 :零
2024/04/02(火) 12:46:55

「あれが……天体望遠鏡……」

 巨大な望遠鏡が目の前に、堂々とそびえ立っている。

「僕の家にあるのとは、形も大きさも全然違う……すごいや」

「お客様……こんにちは。私はガイドの[ロロ]と申します」

 水色の髪をした綺麗なお姉さんが、無表情で私たちに話しかけてきた。

「ロロさん……か。綺麗な人だな……」

「お褒めいただきありがとうございます。ですが、私はガイド用に開発されたAIですので……感情はございませんが」

 AIと人。感情があるかないかの違いがある。逆に言えば、それくらいの違いしかない。
 もし、AIに感情が生まれたら……それはAIと呼べるのか。もし、私たちが感情を失ってしまったら……それは人と呼べるのか。昔から人々は、そんな話をしてたんだって。なんだか難しい。
 ロロさんを目の前にして、私たちはなぜか言葉が出なかった。

「では、この天体望遠鏡の説明をさせていただきますね。この望遠鏡は2130年に……」

 ロロさんはこの望遠鏡の説明を沢山してくれた。
 説明の途中、私たちは望遠鏡を覗けることになった。

「詩織、先に望遠鏡覗いていいよ。僕はモニターで同じ視点から見た景色を確認できるから」

「え、あ、ありがとう……」

 霧彦くんの優しさには、思わずいちいちドギマギしてしまう。
 私は台の上に乗って、大きな望遠鏡の小さなレンズを覗いた。

「星が……沢山……」

「あの赤い星の右下にある星が地球です」

 ロロさんが言った。

「そうなんだ……私たち、こんなに遠くまで来ちゃったんだ……」

「地球からいらっしゃったんですね。地球は美しい星と聞いています」

「地球は……美しい星……地球が綺麗かどうかなんて、今まで地球に住んでたのに、全然考えたことなかったな」

「遠くから見るからこそ、綺麗に見えるものもあるんじゃない?」

 霧彦くんの言葉は、時々胸に強く突き刺さる。なんていうか、感動する。

「確かに……そうかもしれないね」

 私たちはすっかり、星に夢中になっていた。

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10 :零
2024/04/02(火) 12:51:40

【私の願い】

 しばらく星を見ていると、一つ、また一つと、流れていく星を目にした。

「流れ星……私、生で見るのは初めて見たかもしれない……」

「僕も、生で見るのは初めてだよ……!」

「良かったら……流れ星に願いを込めてみてはいかがでしょうか?」

「そっか……よし……」

 私の願い……それは、霧彦くんと付き合うこと。
 私は望遠鏡から目を離して、心臓に手を当てたあと、ゆっくりと「霧彦くんと付き合えますように」と心の中で言った。

「霧彦くんは……何を祈るの?」

「そうだな……それは、秘密かな」

「じゃあ、私も秘密!」

 そう言って私たちは笑いあった。

「ロロさん……感情がないって、言ってましたよね? ロロさんには……願いって、あるんですか?」

 ロロさんは私の言葉を聞いてハッとしたような表情を浮かべた。

「私の……願い。そうですね……考えたことがありませんでした」

「感情がなくったって、願いはあってもいいんじゃないかと思って……」

「なるほど……」

「ロロさん。願いは、どんなものでもいいんです。小さな願いだって、大きな願いだって、自由です」

 霧彦くんがそう言ったあと、ロロさんはこう言った。

「私は……みなさんの願いが叶うことを……願っています。私はAIですから。それだけで十分です」

「そうですか……私、思うんです。ロロさんって、いい人だなって」

「嬉しいですが……私はAIですから……」

 ロロさんの言葉をさえぎって、私は続けて言う。

[返信][編集]

11 :零
2024/04/02(火) 12:51:57

「私は、願いにAIとか人とか、関係ないと思うんです! 何がAIなのかとか、何が人なのかとか、難しいことはよく分からないけど、とにかく私はそう思ったんです。だからロロさんには、自分の思いを持っていて欲しいんです」

「自分の……思い。そのようなことを言われたのは初めてです……生まれてからずっとここでガイドをしていたものですから」

「いつか……もっといろんな経験ができるといいですね」

「そうですね……」

「僕も、ロロさんの幸せを願っています。それじゃ……」

 霧彦くんがロロさんにさよならを言おうとしたその時だった。
「ちょっと待ってください。これをお二人に……」

 ロロさんはそう言って、小さなポーチを私たちに差し出した。

「これは?」

 私は首をかしげる。

「これは[クラインポーチ]と呼ばれるものです。私がここにくる人たちにプレゼントとして差し上げているもので、この中には無限の荷物が入ります」

「む、無限!?」

 私は信じられなかった。

「はい。異空間に繋がっておりますので」

「な、なるほど……」

 分かったような分からないような。ともかく、とっても便利なものを貰った。

「最後に……私に願いをくれて、ありがとうございました」

「いえ、私は何もしてませんよ。ただ、ロロさんにも願い事があれば素敵だなって思っただけです」

「そうですか。ちなみにお二人のお名前は……」

「月夜詩織です」

「霧彦……日向霧彦です」

「詩織さんに……霧彦さん。いつか、また」

 ロロさんは笑顔で私たちに手を振った。

「うん。じゃあね」

 こうして、私たちはエレベーターに乗って、210階をあとにするのだった。
 エレベーターに乗っている途中、さっきのアナウンスの人が、私たちに話しかけてきた。

「お二人とも、ご満足いただけましたでしょうか?」

「はい。僕も月夜も、星を見れました」

「願い事もできたし、楽しかったです!」

「それはそれは……なによりでございます。このタワーはクラインポーチと同じ、無限の空間を有する[クラインシステム]を採用しておりますから、どんなに人がいても、自分たちだけの空間で、宇宙の観察をお楽しみいただけたことかと……」

「そういえば、私たち以外に人はいなかったね」

「クラインポーチといい、全く、この星の技術はすごいな……」

 無限の空間……やっぱりイマイチピンとこないけど、そんなことができるなんて、びっくりだ。

「もちろんですとも。あぁ、ちなみに、お二人はどちらからいらっしゃったのでしょう?」

「僕らは、地球から」

「地球ですか……ではこの時期ですと、ひょっとして……銀河鉄道に乗ってやって来られたのですか?」

「そうそう! 私たちは、銀河鉄道に乗ってきたの! 知ってるんですね!」

「はい! なにせ、私の古くからの友人のスチーラという人が、あの列車の車掌をしているものですから」

 なんと! そんな繋がりがあったとは。

「そうだったんですか! 私たち、スチーラさんと話したんです!」

「おやおや、そうでしたか。それでしたら、ぜひスチーラに、よろしくお伝えください」

「はい! 分かりました!」

 そろそろこの星ともお別れ。テレスコープタワーを離れ、銀河鉄道に戻ってきた私たちは、近くにいたスチーラさんに言った。

「私たち、スチーラさんの友達に会ってきました!」

「おや、となると……テレスコープタワーの彼ですか。久しく会ってませんが、元気そうでしたか?」

「うん。元気そうでした」

「そうでしたか。良かった。それでは、私は戻りますので、引き続きごゆっくり、銀河の旅をお楽しみください」

 スチーラさんはそう言って、後ろの方へ走っていった。
 次の星では、どんな出会いがあるのかな? 楽しみだな。

[返信][編集]

12 :零
2024/04/03(水) 01:08:32

【音楽の星】

「まもなく列車は……[音楽星コーダ]に停まります……」

 静かな列車の中で、スチーラさんのアナウンスが響いた。

「ん……そろそろ起きなきゃ……」

 私たちは寝台車で睡眠をとっていた。星から星への移動はちょうど一夜かかるから、結構大変。

「あ……月夜?」

 寝台車のベッドは二段になっている。
 上のベッドで寝ている霧彦くんの声が聞こえた。

「そろそろだって」

「そっか……よし、支度して席に戻ろう」

 着替えが終わって、自分の席に座った私たちに、スチーラさんが話しかけてきた。

「旅はいかがお過ごしでしょうか?」

「最高です! 僕だけじゃなくて、月夜もいるから、楽しさが二倍になってるような気がして……」

「霧彦くん……」

 楽しさが二倍……確かに、私もそんな気がする。

「そうでしたか。何よりでございます。次の星は音楽星コーダ。様々な妖怪たちが暮らすにぎやかな星です。それでは、ごゆっくりお楽しみください」

 ガラーッと、古めかしい音を立てて、列車のドアが開いた。
 妖怪。日本ではさまざまな伝承でその姿が語られている。けど、妖怪たちの正体が、実は日本にやってきた宇宙人のことだったという事実に地球の人々が気づいたのは、最近になってからのことだった。

「なんで妖怪の人たちは、地球にやってきたんだろうね?」

 音楽星のホームに出て、私は霧彦くんに言った。

「地球にある音楽が好きになったからだよ。歴史の時間で習っただろ?」

「あ、そういえばそうだったね……」

 私、歴史は苦手教科。その代わり、国語は得意。

「この星に住む人たちは、地球の音の中でも、日本の音楽が好きになった。だから、日本には妖怪の伝承がたくさんある」

「なるほどねぇ……」

 霧彦くんの得意教科は歴史。というか、霧彦くんのテストの点を見ると、得意教科は全部と言ってもいい気がする。
 私は霧彦くんについていって、目的地の[ヒュードロピアノ]と呼ばれる場所へ向かった。
 街には、屋根が歪んだり逆さまだったりする変な建物が並んでいる。

「あった! あれがヒュードロピアノだ!」

「あ、あれがピアノ?」

 霧彦くんが指をさした方向には、生き物のような大きな三本の足と、丸っこい形。大きな目と、口のような鍵盤があるピアノ……? があった。

「わ、わぁ……」

 私は言葉が出てこなかった。この見た目をなんと表現すればいいのやら。

「お! 地球人か。俺を弾いていくかい?」

 ピアノに近づくと、突然、鍵盤の蓋がパクパク動き出した。

「わっ!」

「驚かせてすまんな。俺の名前は[ヒュードロ]。観光名所みたいになってるが、れっきとしたこの星の住民だ! よろしくな!」

 その声は、高くて、ガラガラした声だった。

「それって……つまり……」

「ピアノの形をした妖怪ってことだよ。月夜、怖がるのは失礼だ」

 霧彦くんはそう言って、私の方を見た。

[返信][編集]

13 :零
2024/04/03(水) 01:08:43

「そ、そっか。ごめんなさい、ヒュードロさん。私……全然この星の人たちのこと、分からなくて……」

「気にするなよ! 怖がられるのは俺たち慣れっこだぜ?」

 確かに……妖怪って、怖いイメージあるけど……案外優しい人たちなのかもしれない。

「地球人、二人はピアノ、弾けるのかい?」

「わ、私が……」

 私は恐る恐る手を挙げた。5歳の頃からピアノはやってるけど、あんまり上手くないから、こんな街のど真ん中で演奏するのって、なんか恥ずかしい。

「恥ずかしがるなよ! 気持ちは演奏に出るからな! 弾くなら堂々と、だぜ」

「は、はい! じゃあ……私、弾きます!」

 元々、旅行の計画では私がここでピアノを演奏する予定だった。けど、いざとなると、緊張するなぁ。
 私はイスに座って、持ってきた楽譜を譜面台に立てた。

「で、何を演奏するんだ?」

 ヒュードロさんが訪ねてきた。

「ドビュッシーの、月の光。私の一番好きな曲なんです」

「ナイスチョイスだ! それじゃ、早速頼むぜ」

 いつの間にか、ゾロゾロと人が集まってきた。猫みたいな人とか、毛むくじゃらの人とか、目だらけの人とか、とにかく沢山いた。
 よし。人生、時には思い切りが必要だから。私、頑張る。

「すぅー……」

 私は深呼吸をして、歯のような見た目の鍵盤に触れた。
 それは、優しく、それでいて深みのある音だった。
 大切な人と一緒に、月の光に照らされて、ずっと静かに夜を過ごしていたい。この曲には、そんな思いが込められているような気がした。
 最後の一音を奏でると、周りの人からの拍手が一斉に聞こえた。

「ブラボー!」

「最高だよ!」

 そこここで感動の声が聞こえる。

「ありがとう……! みなさん!」

「月夜……! すごいよ!」

 霧彦くんが私に駆け寄って言った。

「うん……ありがとう」

「よくやったぞ地球人! 最高の演奏だったぜ!」

「ヒュードロさんも、いい音でしたよ」

「え……あ、あ……ほ、褒められてもなんも出ねぇからな……」

「はははっ! ヒュードロさんったら、分かりやすーい」

 ヒュードロさんの言葉に、私と霧彦くんは思わず笑ってしまったのだった。

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14 :零
2024/04/03(水) 01:11:58

【運命の音色】

 人生で初めて人から拍手喝采を浴びた私は、その後、私の演奏を聴いた人たちから「サインくれよ!」と言われて、結局全員にサイン色紙を渡すことになってしまった。

「はぁ……疲れた……」

 色紙を渡し終わった後の私は、すっかりクタクタになっていた。

「お疲れ様。大変だったね。でも、これは月夜の演奏が好きって人が多い証拠だから」

「そう……だよね。ありがとう霧彦くん。私、ピアノやっててよかったって、初めて思えた」

 私、なんだかこの旅で、自分がどんどん変わっていくんじゃないかって、そんな気がする。だから、一つ一つの時間を大切にしなきゃ。

「あ、そうだ。僕ちょっとトイレ行ってくるから、ちょっとここで待ってて。ごめんね」

「トイレがどこにあるか分かるの?」

「人に聞けば分かると思う。とにかく、ここで待ってて」

 霧彦くんはそう言って、どこかへ行ってしまった。
 私も一緒について行きたかったんだけど、霧彦くんは一人で行きたそうにしていた。なんか変だなーと思いながら、私は霧彦くんを待つことにした。

「おい、そこのお嬢」

 背後から声がした。

「はい?」

「占いはスキか?」

「占い?」

 言われてみれば、私、割と占い好きな気がする。だって、よく当たる占いの本とか、タロットカードとか、色々持ってるから。

「は、はい、好きです……けど?」

「俺は占い師やってるんだが……どうだ、今からするか?」

「え……? いや、急に言われても……」

「片思い中なんだろ? 恋愛運も占ってやるよ」

 言葉が私に突き刺さり、一瞬で鳥肌が立った。

「え……なんでそれを……?」

「あー、勘ってヤツかな……ってか、俺の顔くらい振り向いて見て話したらどうだ?」

「あ、ごめんなさい……」

 私は振り向いてその人の顔を見た。私よりも背の低い男の人っぽかったけど、フードを被っていて肝心の顔は見えない。

「金は100円でいい。無理強いはしねェからよ。さ、どっちにする?」

「100円!? え……どうしようかな……」

 恋愛運か……よし、まずはやってみよう。霧彦くんを待ってなきゃいけないけど……すぐ戻ってくるようにする。

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15 :零
2024/04/03(水) 01:12:09

「お、やるって顔してんな。分かった。こっち来いよ」

「えっ! なんでそんなに私の気持ちが分かるんですか?」

「だから言ったろ? 勘だよ……カ、ン」

 私は名前も知らないその人についていくと、人気のない街角にたどり着いた。

「おし。ここが俺の仕事場だ。ま、このテーブルとイスがあれば、どこでも仕事場になるんだけどナ」

「そうなんですね……なんか占い師って感じ」

「だろ? あ、そうだ。自己紹介がまだだったな。俺は[カメル]。地球……それも日本では、小豆洗いとか呼ばれてる」

 小豆洗いって樽に小豆を入れて、川で洗うとかなんとか。
 私は椅子に座って、目の前のカメルさんに言った。

「それで……どうやって占うんですか?」

「俺の占いは、小豆の音で占うという唯一無二のスタイルだ。繊細な音の波を感じて、お客がどんな気持ちなのか、どんな運命にあるかを感じ取る」

「へぇ……なんだか面白そう」

「おう。そう言ってもらえて嬉しい限りだ。そんじゃ、早速始めるぞ」

 カメルさんは一つの樽を取り出した。中にはもちろん、小豆が入っている。

「この中から5粒だけ、取り出してくれ。直感でサッとな」

 私は言われるがまま五粒、小豆を樽から取り出す。

「よし。そうしたら、この樽の中に今持った小豆を1粒ずつ、この樽の中に落としてくれ」

「……はい」

 二人の間に緊張が走るのを感じた。どんな結果が出るのか、楽しみだけど、不安もある。
 チャリ、チャリと、一粒ずつ音が鳴るのを噛み締めて、私は小豆を落とした。

「オッケー。分かったぞ。お嬢の想いと運命が」

「え、もう?」

「こういうのはパッと出てくるモンなんだわ。で、まずは一言で今の運勢を表すなら……『勇気持たざるもの、幸福を得ず』だな」

「えっと……つまり?」

「お嬢は遠出でこの星へ来たんだろう。ここまでご苦労だったな。だがこの遠出では、お嬢にとってあと五つ、試練が待っている。その試練を突破するには、お嬢自身の勇気が必要になる。それを乗り越えれば、恋愛もきっと、上手くいくだろう」

 カメルさんには銀河鉄道のことを言っていないのに……なんでそこまで……とにかく当たってる。すごい。

「勇気……ですか」

「そう。とにかく勇気を持って、思い切った行動をする。それが、たった一つのさえたやり方だ」

「そうですか……そうですよね。私、頑張ってみます!」

 私は100円をカメルさんに渡して戻ろうとしたら、カメルさんは言った。

「おいお嬢! これ、持ってけ!」

 歩き出した私に、カメルさんは何かを私に投げてきた。

「わっ!」

 私は振り返って、すかさずキャッチした。私、結構反射神経いいかも。

「それは恋のお守りだ! お嬢、応援してるぜ!」

「ありがとう! カメルさん! これ、大切にする!」

 私は手を振って、カメルさんと別れた。
 そのあと私は、無事霧彦くんに会えた。霧彦くんの方が先に戻っていたみたいで、心配をかけてしまったけど……「こちらこそ待たせてごめん」って言って、許してくれた。霧彦くんって大人だなーって、つくづく思う。
 私たちはそれから、沢山この星を観光して、あっという間に列車の発車時間になった。
 次の星では、どんな出会いがあるのかな。

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16 :零
2024/04/03(水) 14:38:12

【大海の星】

「まもなく列車は……[大海星マリリ]に停まります……銀河の旅を……ごゆっくりお楽しみください……」

 一晩経って、列車は次の駅に停車しようとしていた。
 大海星マリリ……確か、「海の底に沈む魚人の星」って旅行ガイドに書いてあったな。
 霧彦くんと一緒に、停車した汽車を降りる。

「月夜、ここからは着替えないと」

「あ……そういえばそうだったね」

 実はこの星は、大量の海水でおおわれている。陸が無いってこと。だから、この星に住む魚人たちは、みんな海の中で暮らしている。私たち人間は、そんな海の中で呼吸をするために、[水中呼吸水着]を着る必要がある。
 水中呼吸水着は、私たちが普段、海やプールに入る時に身につける水着のこと。

「この駅から出る方は、横の更衣室で水着に着替えてください」

 駅員さんの指示に従って、私たちはそれぞれ更衣室に向かった。

「それにしても……霧彦くんに水着見られるの……ちょっと恥ずかしいかも……」

 そんなことを言いながら水着に着替え終わった私は、出口の扉へ向かった。扉は二重になっている。ここから先は海の中ってことだ。

「ほ、本当に海の中でも大丈夫なのかな……」

 私……カナヅチなんだ。全くと言っていいほど泳げない。

「でも……私はこの旅で変わるんだ。よし、行かなきゃ。霧彦くんが待ってる」

 重そうな一枚目の扉は、私がボタンを押すと、自動でゴゴゴ……と音を立て開いた。

「ここから先は海の中。でも、呼吸はできる……だから、きっと大丈夫」

 一枚目と二枚目の扉の間にある、私が今立っている空間に、少しずつ海水が入っていく。
 流れてきた海水は、あっという間に腰のあたりまで満ちてきた。

「うん。一気に……潜ってみよう」

 私はそう意気込んで、ザプンと体を海水に浸けた。

「んぶ……ぅ……う、あ」

 この水着を着ている間は、ゴーグル無しで目を開けられるし、会話もできる。けど、私は今でも慣れずにいる。

「あー……あー……よし、喋れる。目も開けられる。このまま、霧彦くんに恥ずかしいところを見せないようにしないと!」

 二枚目の扉を開けると、目の前に広がった景色に、思わず息をのんだ。

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17 :零
2024/04/03(水) 14:38:23

「いろんな魚が、いっぱい泳いでる……」

 カラフルな魚が、さまざまな方向へ泳いでいた。
 海はとっても青く広く、光っているように見える。

「そうだ、霧彦くんを探さないと! 確か、あっちの方に男子更衣室の出口があったはず……」

「月夜、こっちだよ」

「えっ?」

 驚く私の後ろに、霧彦くんがいた。

「霧彦くん! いつのまに?」

「この辺で月夜を待ってたんだ。さ、準備が出来てるなら、行こう」

 霧彦くんは笑顔で言った。

「う、うん!」

 霧彦くんがスィーっと下の方へ潜る。私はそれを追いかけるように泳ごうとしたんだけど……えっと……ね。

「ん、ん、ん……動かない……」

 私は手足をバタバタさせながら、その場でそのまま一回転してしまった。

「はぁ……私、全然ダメ……」

「あれ? 月夜って、泳げなかったっけ?」

 まずい。完全にバレてしまった。はぁ……このままどうせ私は、霧彦くんに全然良いところを見せられないまま、このデートを終えるんだ……と思った瞬間のことだった。

「月夜、僕の手に捕まって!」

「えっ」

「いいから、ほら!」

 霧彦くんは私の方に戻ってきて、私の手を掴んだ。

「わっ!」

 そのまま霧彦くんは私を連れて、海の底の方へ潜っていく。
 冷たい海水の中で、霧彦くんの手だけが、ただひたすらにあったかい。まさか、こんなタイミングで手を繋ぐことになるなんて。
 海の底では、[海中サーフィン]というスポーツが楽しめる。これは普通のサーフィンと違って、海中を自由自在にスイスイ進んで楽しむ。

「ねぇ月夜」

 海中サーフィンをするために海の家へと向かう途中、霧彦くんが私に話しかけた。

「なに?」

「月夜のその水着……似合ってるな、って」

 似合ってる……!? え、え、え! 私、霧彦くんに今、水着を褒められちゃった! どうしよう! 多分今、私の顔めっちゃ赤くなってる。

「え、あ、ありがとう……! たくさん悩んで買った水着だから……嬉しい」

 なんだか気持ちがフワフワ浮いている気分。あったかくて、心地いい。このままずっと、手を繋いでいられたらな……なんて考えてると、私たちは海の家に到着した。

「ここが海の底。立てる?」

「あ、うん」

「すみませーん、海中サーフィンをしたいんですけど、サーフボードの貸し出しってここですか?」

 霧彦くんが海の家の入り口で声を発すると、奥から背の高い女の魚人が出てきた。
 姿は地球で言う人魚そのものだった。

「やぁやぁ呼んだかい……って、おっとぉ……お二人さん、おアツい関係みたいだねぇ」

「えっ、あ、いやえっと」

 手、繋がったままだった。私は、「おアツい関係」って言われて、なんか急に恥ずかしくなって、霧彦くんと手をサッと離した。

「おやおや、隠さなくてもいいのに。ま、なんでもいいけどネ」

 あぁ……私、霧彦くんと手を離しちゃったこと、すごく後悔してる。

「お二人さん、海中サーフィンは初めてかい?」

「はい。僕らは初めてです」

「そうかいそうかい。アタシは、この海の家の店主にして海中サーフィンのプロ、[フォック]だよ。よろしくニャン」

 そう言ってフォックさんは、猫の手のようなポーズをとって、シシシと笑った。
 フォックさんの尾びれが、ヒラヒラと舞った。

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18 :零
2024/04/03(水) 14:49:13

【水の踊り子】

「そんじゃ、早速基本のキから始めるよん」

 サーフボードを貸し出してもらった私たちは、フォックさんにいよいよ海中サーフィンのやり方を教えてもらうことになった。

「さっきも言ったけど、アタシはこの海中サーフィンのプロ。大会で入賞した回数は……もう数えてないわ。だから、レクチャーに関してはお手のもの。さ、テキパキやるよー」

 そう言ったフォックさんの目つきは、今までとはうってかわって、キリッとした、少し怖い目になっていた。

「フォックさん、厳しそう……」

「大丈夫だよ月夜、僕も初めてだから」
「で、まず乗り方だけど……」

 フォックさんのレクチャーは分かりやすくて、面白かった。予想通り、ちょっと厳しかったけどね。
 霧彦くんは、さすがの運動神経でサーフボードをすぐに乗りこなし、フォックさんを驚かせていた。
 それに対して私はと言えば……もう、言わなくても分かるよね。

「あでっ!」

 助走をつけて水に乗る初歩的な段階でサーフボードから綺麗に落っこちた私は、思わず変な声を出してしまった。

「詩織っち! 水をもっと切って!」

「月夜! もっと助走でスピードを出すんだ!」

 フォックさんと霧彦くんにまたおんなじことを言われてしまった。

「そうねぇ……詩織っちに足りないのは、勇気かな」

 フォックさんが何気なく、ボソっと言ったその言葉が、私の胸に刺さって、抜けなくなった。
 そうだ。「勇気持たざるもの幸福を得ず」……カメルさんはそう言ってた。きっと、これは5つの試練の1つ目なんだ。勇気がきっと、私を導いてくれる……!

「一旦休憩するかい?」

 心配するフォックさんの一言に、私は立ち上がって答えた。

「いや、もう一回だけ……やります……」

「月夜……分かった。けど、あんまり無理しないで」

「うん。ありがとう霧彦くん。私、やらなくちゃいけない気がして」

 私は再びサーフボードを持って、走り始める。
 何度も転んだから、膝が少し痛い。
 でも、走るんだ、私。もっと、もっと!

「はぁっ!」

 手に持っていたサーフボードを前に突き出して、そのまま上にジャンプして、乗る!

「わっ」

 浮いた……!? そんな風に思ったその時、サーフボードは音もなく水を切った。
 私、水を切ってる! 水を切って、上に、上に。

「で……出来た! 私、出来たよ!」

「すごいよ月夜! よし、僕も!」

 後ろからそう声が聞こえると、霧彦くんがサーフボードに乗ってついてきて、あっという間に私のすぐ横まで追いついてきた。

「月夜、一緒に行こう!」

「うん……!」

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19 :零
2024/04/03(水) 14:49:26

 私たちは自由自在に海中を駆け巡った。まるで、空を飛んでるみたいだった。

「よっ!」

「わっ! フォックさん?」

 私たちの前に、フォックさんがいきなり飛び出してきた。

「間に割り込んじゃってすまないねェ……でも、お二人さんを見てると、かつて水の踊り子と呼ばれた、この私の血が騒いじゃってサ」

 そして、フォックさんはそのまま海中で大きく一回転! すごい。さすがプロ……なめらかで綺麗な動き……!

「フォックさんすごい!」

「まーねっ」

 私たちは夕方まで海中サーフィンをめいっぱい楽しんだ。

「フォックさん。今日はありがとうございました」

 霧彦くんが礼儀正しく言った。
 オレンジ色の光が海面から差し込む。

「アタシも久々に楽しい思い出ができた……詩織っちも、立派な水の踊り子だよ。ありがとね」

 こうして、私たちは列車へと戻るのだった。

「銀河鉄道、あまのがわものがたり号は、まもなく発車いたします……」

 駅ではアナウンスが鳴り響く。

「よーし、ギリギリセーフ!」

「危なかったね……」

 着替えを済ませて、私と霧彦くんは時間ギリギリで乗車した。すると霧彦くんが私にこう言った。

「ねぇ月夜、今日の夜は[銀河渡り鳥]が見られるらしいから、寝台車に戻らないで、外を見てようよ」

「銀河渡り鳥?」

 銀河渡り鳥……一体どんな鳥なんだろう。
 席について、しばらく窓の外を見ていると、キラリと輝く何か小さな光が見えた。

「あれが……銀河渡り鳥?」

「ご乗車の皆様、窓の外をご覧ください……星から他の星へと移る魂の運び屋、銀河渡り鳥でございます……」

「命の運び屋……?」

 スチーラさんのアナウンスが聞こえると、どんどん光が大きくなってきた。どうやらこっちに近づいてきているみたいだ。

「古来より、魚人の人々は、『星は亡くなった人の魂であり、銀河渡り鳥はその魂の運び屋である』という伝承を信じていました……」

「そうなんだ。なんだか素敵な話……」

 光り輝くその鳥たちは、ただひたすらに、飛び続けていた。私はそれを、ただひたすらに見ていた。この銀河に眠る、たくさんの命を想って。

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20 :零
2024/04/05(金) 18:58:47

【火炎の星】

「まもなく列車は……[火炎星メテス]に停まります……銀河の旅を……ごゆっくりお楽しみください……」

 次の星は、熱く燃える精霊の星、火炎星メテス。
 ひと足先に起きていた私は、向かいの席でまだすやすや寝ている霧彦くんを起こす。

「起きてー」

「ん……あ、ごめん、おはよ」

「メテスでは、年に一度だけ開催される[またたきまつり]が今ちょうど催されているところでございます。良ければ是非ご参加ください……」

 そうそう。私たちはそのまたたきまつりに参加するために、浴衣を持ってきている。あぁ、霧彦くんの浴衣姿、どんなんだろうな……きっとかっこいいんだろうな……とか思いながら、私は寝台車で浴衣に着替えた。

「月夜、お待たせ」

 私の後に着替えてきた霧彦くんが、席で待っていた私に言った。
 あぁ、シンプルながらおしゃれな、紺色の浴衣姿が眩しい。

「霧彦くん……浴衣、とっても似合ってる」

「あ、ありがとう! 月夜も……可愛いよ」

 えっ! い、今、私に可愛いって言った!? や、やばい……霧彦くんの照れてる姿も……ちょっと可愛いかも。
 浴衣に着替え終わった私たちは、少し距離感が縮まった気がした。

「この星は常夏ですから、ここから先は気温が高くなっております。どうか、お気をつけて」

 スチーラさんが、荷物を持って列車から出ようとする私たちに言った。

「うん。ありがとうスチーラさん。行ってくるね」

 暑いのは苦手だけど、飲み物たくさん持ってるから、大丈夫。
 ガラーっと音を立て、夏への扉が今、開いた。

「うわっ! やっぱり暑い……」

 列車の中に、ムワッと生暖かい空気が勢いよく流れてきた。
 駅に出ると、構内はすごい人だかりで、一瞬で霧彦くんを見失いそうだった。

「はぐれちゃうから、手繋ごうか」

「うん」

 手を繋ぐのも二回目。もしかしたらこのまま、今夜の[またたきまつり銀河花火大会]の花火を見ながら、霧彦くんに告白できるかもしれない……どうしよう、できるかな……いや、ここまで来たんだから、やるしかない! 頑張れ私!
 またたきまつりでは、ありとあらゆる道が、射的やわたあめ、チョコバナナやお面屋さんなどの縁日の屋台で埋め尽くされていた。
 人だかりは駅よりもさらに激しく、この星に住む精霊や妖怪、ロボットたちまでもが、たくさんひしめきあっていた。

「僕の手、離さないでね」

「分かった……」

 手、離さないでね、か。できれば、これからもずっとずっと、繋いでいたいけど。
 うつむいてそんなことを考えていると、ドン、と、何かにぶつかった音がした。

「ひゃっ!」

「月夜!」

 あ! 手が離れちゃった……!
 人だかりでもみくちゃにされる私。一瞬にして霧彦くんの姿が見えなくなってしまった。

「まずい。まずいまずいまずい! あ、そうだ。Fギアで連絡取ろう!」

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