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93.MÖBIUSーThe next HEROー
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2 :迅
2020/07/21(火) 20:46:06
ー日本・東京都ー
「怪獣だぁぁぁあああ!」
「おい!さっさと逃げろよ!」
「ママ!ママぁ!」
「皆さん!落ち着いて避難して下さい!」
夜の大都市に響き渡るは、人の悲鳴と獣の雄叫び、そして発砲音と砲撃音。
血と硝煙が舞う混沌とした世界の中で、政府管轄の特殊部隊の制服を着た男性が、落ち着いて避難するよう必死に呼びかけていた。
戦闘開始から約数分で部隊は全滅の危機に瀕し、勿論救助は来ない。どうしようもないクソッタレな状況に、避難誘導を担当していた男性は、苦しそうな表情で周囲を見渡した。
「皆さん!落ち着いて避難して下さい!便は手配してあります!どうか落ち着いて避難して下さい!」
彼の必死の呼びかけを続ける。
だが、それも虚しく、避難者の中には自殺する者や他者を踏み付けてまで自分優先で逃亡する者、全てを諦め泣き出す者も居た。
「もう駄目だ……おしまいだ……」
「大丈夫、きっと助かりますよ!(俺だって泣きたいよ!頼むから諦めないでくれ!)」
今にでも泣きそうな心を押し殺し、男性は一人一人に声を掛けながら誘導を続ける。
途中、立ち止まった女性が何処かに指を指しながら甲高い悲鳴を上げ、その方角に視線を向けてしまったのが、彼の運の尽きだったのかも知れない。
「突っ込んでくるつもりか…………!?」
上空で戦闘機とドッグファイトを繰り広げていた巨大生物が、突如こちらに方向転換して突っ込んで来る。彼は声を張り上げようとしたがーーー
「(まずい……!)皆さん!落ち着い……」
「こっちに来るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
別の男の叫びに掻き消され、押し寄せる人波に流されながら、彼は己に迫る死を悟る。
「(ああ、終わった……)」
本能的に死を悟ったのか、目の前に迫りつつある巨大生物のスピードはやけにゆっくりに感じる。
何も、この仕事も悪い仕事では無かった。過酷な仕事だったが高い給料も貰えたし、社会的にも満足いく地位に就くことも出来た。
ただ一つ、彼が後悔した事といえば、愛する家族を愛し切ってやれなかった事だろう。
「(美奈《みな》……柚月《ゆづき》……ごめんよ)」
いつでも人間は、呆気なく死を迎える。
彼はそっと目を閉じ、迫り来る死を迎え入れようとした、次の瞬間ーーー
「クアァァァァァアアアッ!!!」
巨大生物は怪鳥めいた叫び声を上げ、途轍もない風圧と獣臭を撒き散らしながら地面に叩き落ちた。
「………は?」
彼はおそるおそる目を開け、目の前の状況に理解が追いつかず間の抜けた声を上げる。
目の前には先程こちら目掛けて突っ込んで来た巨大生物の亡骸と、黒いスーツをその身に纏った人型の何かが、彼の前に立っていた。
黒スーツの人型は男性を目線を向け、紳士然とした口調で彼に問いかける。
「お怪我は?」
「いえ……大丈夫、です。貴方は……?」
「私ですか?いえ、正確に言うならば、私『達』……でしょうか」
「『私達』……」
彼の問いに人型は目をうっすらと細め、こう答えた。
「私達の組織の名は……《星団評議会》です」
西暦2054年。
星団評議会《彼ら》は、終焉を迎えようとしていた人類と、なんの前触れもなく接触した。
同日、国際連合と星団評議会によって《異星間交流条約》が締結。我が国日本も《異星間交流国》の一つとして彼らの支援を優先的に受ける事になり、前以上の科学力を手に、瞬く間に復興を遂げた。
***
ー半年後ー
「常盤ー、どしたー?」
「いや、何でもない」
新たな物語が、始まる。
Episode零「憧憬」
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