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┗93.MÖBIUSーThe next HEROー

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1 :迅
2020/07/21(火) 19:43:06

【刮目せよ、ヒーローの極限を。】

御機嫌よう、迅だ。
現在エブリスタにて投稿中の小説だ。
感想やコメントは常に待っているが、要望に関しては下記のURLの先で投稿して欲しい。
(以下URL)
mb2.whocares.jp
登場人物なども上記のスレで行わせて貰う為、予め了承して欲しい。

[返信][編集]

2 :迅
2020/07/21(火) 20:46:06

ー日本・東京都ー

「怪獣だぁぁぁあああ!」
「おい!さっさと逃げろよ!」
「ママ!ママぁ!」
「皆さん!落ち着いて避難して下さい!」

夜の大都市に響き渡るは、人の悲鳴と獣の雄叫び、そして発砲音と砲撃音。
血と硝煙が舞う混沌とした世界の中で、政府管轄の特殊部隊の制服を着た男性が、落ち着いて避難するよう必死に呼びかけていた。
戦闘開始から約数分で部隊は全滅の危機に瀕し、勿論救助は来ない。どうしようもないクソッタレな状況に、避難誘導を担当していた男性は、苦しそうな表情で周囲を見渡した。

「皆さん!落ち着いて避難して下さい!便は手配してあります!どうか落ち着いて避難して下さい!」

彼の必死の呼びかけを続ける。
だが、それも虚しく、避難者の中には自殺する者や他者を踏み付けてまで自分優先で逃亡する者、全てを諦め泣き出す者も居た。

「もう駄目だ……おしまいだ……」
「大丈夫、きっと助かりますよ!(俺だって泣きたいよ!頼むから諦めないでくれ!)」

今にでも泣きそうな心を押し殺し、男性は一人一人に声を掛けながら誘導を続ける。
途中、立ち止まった女性が何処かに指を指しながら甲高い悲鳴を上げ、その方角に視線を向けてしまったのが、彼の運の尽きだったのかも知れない。

「突っ込んでくるつもりか…………!?」

上空で戦闘機とドッグファイトを繰り広げていた巨大生物が、突如こちらに方向転換して突っ込んで来る。彼は声を張り上げようとしたがーーー

「(まずい……!)皆さん!落ち着い……」
「こっちに来るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

別の男の叫びに掻き消され、押し寄せる人波に流されながら、彼は己に迫る死を悟る。

「(ああ、終わった……)」

本能的に死を悟ったのか、目の前に迫りつつある巨大生物のスピードはやけにゆっくりに感じる。
何も、この仕事も悪い仕事では無かった。過酷な仕事だったが高い給料も貰えたし、社会的にも満足いく地位に就くことも出来た。
ただ一つ、彼が後悔した事といえば、愛する家族を愛し切ってやれなかった事だろう。

「(美奈《みな》……柚月《ゆづき》……ごめんよ)」

いつでも人間は、呆気なく死を迎える。
彼はそっと目を閉じ、迫り来る死を迎え入れようとした、次の瞬間ーーー

「クアァァァァァアアアッ!!!」

巨大生物は怪鳥めいた叫び声を上げ、途轍もない風圧と獣臭を撒き散らしながら地面に叩き落ちた。

「………は?」

彼はおそるおそる目を開け、目の前の状況に理解が追いつかず間の抜けた声を上げる。
目の前には先程こちら目掛けて突っ込んで来た巨大生物の亡骸と、黒いスーツをその身に纏った人型の何かが、彼の前に立っていた。
黒スーツの人型は男性を目線を向け、紳士然とした口調で彼に問いかける。

「お怪我は?」
「いえ……大丈夫、です。貴方は……?」
「私ですか?いえ、正確に言うならば、私『達』……でしょうか」
「『私達』……」

彼の問いに人型は目をうっすらと細め、こう答えた。

「私達の組織の名は……《星団評議会》です」

西暦2054年。
星団評議会《彼ら》は、終焉を迎えようとしていた人類と、なんの前触れもなく接触した。
同日、国際連合と星団評議会によって《異星間交流条約》が締結。我が国日本も《異星間交流国》の一つとして彼らの支援を優先的に受ける事になり、前以上の科学力を手に、瞬く間に復興を遂げた。

***

ー半年後ー

「常盤ー、どしたー?」
「いや、何でもない」

新たな物語が、始まる。



Episode零「憧憬」

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3 :迅
2020/07/22(水) 05:49:28

Episode零如何だったかな?
主人公は最後にちょこっとだけ現れたが、主人公の出番が少ないプロローグなんてこれくらいじゃないか?

【追記】
コメントや要望について
感想・コメント:このスレでもOK
要望:web小説の設定など
この二つ。

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4 :迅
2020/07/26(日) 19:27:49

MÖBIUS第1話、近日公開予定

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5 :迅
2020/07/26(日) 21:21:33

Episode1「幽鬼(前編)」

ー宮城県仙台市ー

「なぁ燈。お前の進路の志望先ってさ、やっぱ外務省職員なんだろ?」
「そうだなぁ……でも警察機動隊も捨て難いし……っていや、なんだよ藪から棒に」

なんの変哲も無い、いつもの通学路。ごく普通の少年・常盤燈《ときわあかり》は、突然の友人からの問いかけにノリツッコミをかます。
彼の父・常盤総二郎《ときわそうじろう》は、齢25歳にして外務大臣に就任し、《星団評議会》と《国際連合》の橋渡し役に立つ人物だ。友人が燈の進路を外務省と決めつけたのも、彼が『偉大な父の後を継ぐ』と、勝手に思い込んでいるからだろう。

「で?実際どうなんだよ?お前の進路」
「いつか決めるよ。そのまま就職じゃなくて、大学とかも目指しても良いかも知れないし……」
「だははははは!真面目か!」
「何だよ真面目で悪いかよ!?」

燈とその友人達は他愛ない話で笑い合い、互いに冗談を飛ばし合いながらいつも歩いている通学路を通り、いつも通っている高校に向かう。
そして、4人が肩気《こづき》合いながら仙台駅の前を通りかかった次の瞬間ーーー

「誰か助けてーーー!!!」
「「「「!?」」」」

駅の方から叫び声が響き渡り、4人はコントじみた動きで駅の方に目線を向ける。駅の方では、女子高生が暴漢達に取り囲まれていた。
その1人が女子高生の腕をガッチリ掴んでおり、意地でも離さない意思が伺える。だが、この手の人種はどうしてその意思をまともな方向に活かせないのだろうか。これがマジに謎である。
女子高生は逃れようと必死に抵抗するが、彼女の華奢な体格では、筋骨隆々とした彼はビクともしないだろう。
それを見ていた燈《彼》は、ゆっくりと歩を踏み出す。

「悪い、先行ってて」
「待てよ燈!危ねぇ……って聞いてねーし!」
「おい」
「あ?」

狼狽える友人の制止を無視し、彼は女子高生と暴漢の間に割って入る。そして、燈は彼女の腕を掴む暴漢の腕を掴み上げ、暴漢は彼を睨み付ける。

「んだお前?」
「お取り込み中悪いけど、この子俺の彼女だから。手荒な真似はやめて欲しいなーってだけ」

睨み付けて来る暴漢に対し、燈はごく自然な表情で当たり前のように嘘をつく。
まず制服が違うし、燈自身も彼女が出来るのならば欲しいし、なにより彼女がいた事を隠していたならば、今頃友人達から集団リンチだ。
男はニヤニヤと笑い、彼女の腕を掴む男以外の暴漢達が燈の周囲を囲い込む。

「なに?正義漢って奴?ひゃー、カッコいいねェ」
「悪いけどさ、お前は少し寝ててくれや」

すると、スキンヘッドの男は燈の腹部目掛けて蹴りを繰り出す。見た目の通り喧嘩慣れしているのだろうか、一般人にしては妙に早い。
ニヤリと笑う男。しかし、男の表情は瞬く間に強張り、みるみる驚愕へと変わっていく。

「なに!?」
「いや、ただ止めただけでそんな驚かれても……」

なんと男の蹴りが燈の腹部を貫こうとした寸前で、彼は男の足を掴んでいた。驚愕の声をあげる男と、男のリアクションに懐疑的な表情を浮かべる燈。両者の実力差は、どう見ても明白だった。

「ほれ」
「うお!?」

彼は掴んだ足をそのまま前に押し出し、バランスが崩された男は地面に尻餅をつく。
その一連のやりとりに男達は狼狽し始め、彼女の腕を掴む金髪すらも額に汗を浮かべた。

「まだやろうってんなら、相手になるぞ?」
「ッ……」

燈は男達を一望し、少し強い口調で告げる。そして、男が取った行動は継戦では無くーーー

「チッ……行くぞ」

取り巻き達を連れて、その場を去っていった。

「じゃあのー……君も怪我とかない?」
「はい、ありがとうございます」

燈は手を振って彼らを見送り、ぺたんと座り込む女子高生に手を差し伸べる。ベージュ色の制服……おそらく王蔵高校のものだろう。
彼女は深々とお辞儀し、燈は爽やかな笑顔で走り去る彼女を見送った後、1人で仙台高校を目指した。
間に合ったのか?無論遅刻した。

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6 :迅
2020/07/27(月) 21:25:44

(中編)

かつて、怪獣と呼ばれる巨大生物の侵攻によって地球は一度滅亡の危機に瀕したが、《星団評議会》の介入により一命を取り留めた。
その後、政府および評議会は怪獣による大規模侵攻を《ファーストアウト事件》と命名し、和平の実現に向けて《惑星間親交条約》を締結してから12年もの時が経った。

***

「……燈、最近変わった事はないか?」
「……どうしたの?いきなり」

帰宅後、父・総二郎からの突然の問いに燈は眉をひそめ、父に問いかける。すると総二郎はどこかバツの悪そうな表情を浮かべたかと思いきや、苦笑いしながら話題を途切らせた。

「いや、いつも通りなら良いんだ。すまなかったな、変な事を聞いて」
「別にいいよ。父さんも疲れてるだろうし」
「ああ、評議会の方々と会議中でな」

父はそう言い、普段吸わない烟草《タバコ》に火を付け、口に咥える。(タバコと言えば有害なイメージが付き物だが、近年品質改良がなされた。)
それを見ていた燈は、物珍しげな表情で呟いた。

「珍しいね、父さんが烟草吸うなんて」
「最近色々あるからな、一服でもしないとやってられんよ」

父はタバコを灰皿に押し付け、燈が耳にタコが出来る程聞かされた話題に切り替える。

「ところで燈、進路先の事についてだが……」
「またその話?俺まだ高1なんだけど」
「別に未来を見据えておいて損は無いだろう。何を目指そうと、それはお前の自由だが、《NEXUS》への入隊だけは許さんからな」

国連直轄の特殊部隊・《NEXUS》。
星団評議会から齎された新機構を用いた開発されたスーツを着用し、非正規移住者や犯罪者を取り締まり、時には要人警護も行う戦闘集団。
父も8年前までは《NEXUS》に所属していたらしいのだが、詳しい事は教えてくれなかった。

「それに、最近帰りが遅いと聞いたが?」
「別に普通でしょ。母さん、ご馳走さま」
「はーい、食器片付けてってねー」

父の長ったらしい話に燈は立ち上がり、食器を水に浸してリビングを後にする。
総二郎は彼の背中を見届けると、台所にて食器を洗っていた母がクスクスと笑いながら、寂しげな様子の総二郎に話しかける。

「あの子も遂に思春期かしらねぇ」
「かも……知れないな。……昨日、明音《あかね》と会って来たそうじゃないか」
「ええ、あの子も元気そうだったし、燈も……」
『臨時ニュースです。本日午後5時半ごろ、羽田空港付近で着陸直前の旅客機が突如爆破し、乗っていた乗客270名……全員が死亡しました。』

刹那、2人はテレビの画面に目を向け、空中で爆炎と共に分解する旅客機を目の当たりにする。
この報道は、あるべき日常の崩壊を意味しており、総二郎はかつての旧友に電話をかける。

『もしもし、久し振りじゃないか。総二郎』
「城戸……例のスーツの準備は?」
『もう完成しているよ、遂に……来たんだね』
「ああ。……願わくば、完成しても使う日が来ない事を望んでいたんだがな……」
________

「うっわ、凄いな……」

時同じく、燈は自室にて臨時ニュースを見ていた。それと同時にネットの掲示板を開くと、そこでは様考察など、様々な書き込みがあった。

『ヤバくね?w』
『これぜってー異星人だろ……』
『ワンチャン《星団評議会》の自演説』
>>125 割とあり得そうで草』
『これ警察と《NEXUS》のどっちが動くんだろ。異星人関連の事件だしやっぱNEXUSかな』
「さすがインターネット、拡散速いな」

彼は手早く状況を整理し、帽子を被りカメラを片手にリュックサックを背負う。特に意味はないが、彼自身ジャーナリストのアルバイトをしている以上、ただ単に特ダネが欲しいだけだ。

「(父さん、母さん……本っ当にゴメン!)」

心の中で目一杯謝罪した彼は部屋に隠しておいたスニーカーを履き、自宅から近い事件現場に向けて走り出した。

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7 :迅
2020/07/28(火) 20:24:23

(後編)

ー羽田空港ー

一方羽田空港前では、入り口に『Keep Out』と書かれたテープが貼られており、入り口に群がる野次馬を警官達が必死に抑えていた。

「皆さん!下がってください!」
「刑事さん!中はどうなったんだ!?」
「私の息子が!私の息子がいるんです!」
「何が起こるか分かりませんので!一般の方々は下がっていてください!」
「ちょっと失礼!」
「あ、コラ君!待ちなさい!」

野次馬を抑える警察のバリケードを飛び越え、燈は羽田空港の国際線の滑走路を目指す。時間帯は午後5時を回っていたが、夏場だったのもあってか外は少し薄暗い程度だった。
全便欠航となった滑走路を走り抜け、辿り着いた事件現場には、知らない何かがそこに居た。

『誰だ?』
「!?」

何者かの視線に射竦められた燈は体を急停止させ、本能的に威圧感を感じ取る。流線型のフォルムは地球人のそれとは限り無い程に遠く、一眼見ただけで『異星人』である事が分かる。

「(やけに流暢な日本語だな……)誰なんだ……?アンタは一体……」

強張る表情筋を落ち着かせ、燈は目の前の異星人にごく自然を装って問いかける。すると、異星人は目を逸らし、暫く思考した後……彼の方に振り向く。

『君に教える必要はない』
「それはどう言うーーーーー!?」

刹那、燈の右腕に激痛が走る。
燈はゆっくりと自身の右腕を確認すると、彼の右腕はグチャグチャに歪められていた。

「がっ……あぁあぁぁぁぁあああ!?!?!?」
『全身を潰したつもりだったのだがな……やはり君は、殺しておかねばならない』
「(こ、殺される………!?)」

焼きごてを押し付けられたような激痛に顔をしかめながら、燈は未だ経験したことが無かった本物の『恐怖』を、今日初めて体験する。
異星人は燈に向けて右手を翳し、その手のひらに収束した薄紫色の光はやがて光線となり、青褪めた彼の頭部目掛けて放たれた。

「うわぁあぁぁぁああああああ!!!!」

燈は迫り来る光線に悲鳴をあげ、恐怖に目を瞑る。しかし、光線は彼にあたる直前で金属音を撒き散らしながら四方に拡散、背後を爆発させた。

『なに……?』
「い、一体何が……!?」

彼はおそるおそる眼を開くと、目の前には、ロングコートを羽織った父・総二郎が立っていた。

「大丈夫か?燈」
「父さん……!」

総二郎はコートを脱ぎ、先程のビームを弾き飛ばした黒い装甲服を露出させる。そして、異星人と総二郎の2人は両者の腕を掴み合い、攻めぎ合う。

『フン……』
「貴様……!何故生きている……!?」
「(なんで余裕そうなんだ……?まさか!)父さん!後ろに下がってーーー」

異星人を睨み付けながら、鬼気迫る表情を浮かべた総二郎は問いかける。だがしかし、嫌な予感を察知した燈は叫ぼうとするが、遅かった。

「ガハッ!」
「父さん!」

異星人の胸部装甲から展開された複腕が総二郎を貫き、内臓を潰されたのか、複腕を引き抜かれた彼は地面に向かって大量に吐血した。燈は総二郎の下に駆け寄り、倒れ込む体を支える。
彼は重々しくと燈に目線を向け、幾度となく彼を育てて来た血塗れの手で、彼の頬を優しく撫でる。

「燈……無事か……」
「父さん!喋っちゃ駄目だ!今、止血するから!」

燈はタオルを取り出して患部に押し当てるが、内臓損失という重傷の為か血が止まる様子はなく、タオルが真っ赤に染まっていく。
異星人は総二郎を介抱する燈を見据え、挑発するような声色で彼に告げる。

『死んだぞ?お 前 の せ い で』
「……黙れ」

燈は抱き上げた父を離れた場所に寝かせ、怒気を孕んだ鋭い視線で異星人を睨み付ける。
すると、メビウスの輪のような光が彼を中心に半径数メートルを照らし、赤と燻銀を基調とした装甲服を見に纏った燈が光の中から現れた。

「初めてなんだ……誰かの為じゃなくて、自分の為に誰かを倒そうと思ったのは……」

彼は悠然と歩を進めながら右腕と意匠が異なる左腕を水平に構え、腕部装甲内に備えられた発信機が起動し、薄青い光刃が左腕に形成される。
そして、燈は大きく跳躍しーーー

「だからさ……俺はお前を、全力でぶっ潰す!」

落下の勢いに乗って左腕を振り下ろし、異星人の袈裟を大きく切り裂いた。

[返信][編集]

8 :迅
2020/07/28(火) 21:46:14

(起承転結の結のとこ)

『グゥ……』
「おおおおおおおお!」

光刃は異星人の袈裟を深々と斬り裂き、異星人がようやく呻き声をあげる。燈は確かな手応えにほくそ笑むが、異星人の思わぬ反撃をモロに食らってしまい、上手く着地できずに地面を転がる。

「うわっ!ッテテ……!」
『辛そうだな』

その情けない動作の一つ一つを見た異星人は、まるで呆れ果てたかのように呟いた。

『まるで制御出来ていないようだが?』
「初めてなんだからしょうがねーだろ……!」

彼は軽口を叩きながら起き上がり、異星人が立て続けに放った回し蹴りを上体を逸らして回避、カウンターの前蹴りで異星人を弾き飛ばす。
再び構えると、燈の下に通信が入って来た。

『燈くん!聴こえるかい!?』
「城戸さん!」
『聴こえてるようだね……!燈くん!これかれ私の言う通りに動作を行うんだ!』

小さく頷いた彼は、城戸の言う通り左腕に装備されたユニットに添えた右手をスライドし、両腕で円を描き、右腕に展開したコネクターに左手首を十字になるように組み合わせる。

『これが君の、現時点における最強の兵装……人呼んで、《メビュームシュート》だ』
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええッ!」

燈の叫びと共に左腕から放たれた光線に対し異星人は防御の構えを取るが、光線は異星人ごと光の奔流が飲み込み、羽田空港滑走路から遥か上空を越えて中間圏にまで光の柱が聳え立つ。
そして、雲すらも吹き飛ばした光の柱が消え去ったそこには、耐え切れなかったのか半身を失い、ボロボロの装甲服を纏った異星人が立っていた。

「なっ……!?」
『どうやら……お前を見くびっていたらしい……』
「改めて聞くけど……お前は、一体誰なんだ?」
『私の名は《ボガール》。【宿命の敵】だ』

満身創痍の異星人・ボガールはそう告げ、霞のようにその場から消え去った。

「(宿命の敵……!?)それより父さんは!?」

戦闘を終え、燈は総二郎の方に眼を向けると、酸素マスクを着け、担架に乗せられて救急ドローンに運ばれていく姿に目に移った。
再生槽《カプセル》に入れれば問題無いだろうが、それでも油断は禁物だろう。

「(よかった……)でも、めっちゃ疲れた……」

そして疲労が重なったのか、燈はその場に座り込みながら安堵の息を吐くと、城戸が『お疲れ様、燈くん』と労いの言葉をかけてくれた。

『君も、行き先が決まったんじゃないかい?』
「そう……らしいですね」

城戸の問いに燈は頷く。

「父さん、俺……《NEXUS》に入るよ」

彼はヘルメットを外し、すっかり暗くなった満面の星空を見上げて、小さく呟いた。

次回
「就職」

[返信][編集]

9 :迅
2020/07/31(金) 19:49:18

Episode2「就職(起)」

ー《NEXUS》仙台支部・モニタールームー

『だからお前を……全力でぶっ潰す!』
「城戸《きど》さん、こいつが例の?」
「ああ、入隊志望の子だ」

「しっかり可愛がってあげなよ?」と、NEXUSの技術顧問・城戸平次《きどへいじ》はニコリと微笑み、モニターを見つめる青年に言い聞かせる。

「それは、新人《そいつ》次第ですよ」

そう答え、踵を返してモニタールームから去って行った彼の名は、久城紀利矢《くじょうきりや》。
世界防衛機構|《NEXUS》強襲班・班長である。

***

ー仙台市杜王町・《星団親交記念館》前ー

「お客さん、着きましたよ」
「ありがとうございます。支払いはカードで」
「分かりました。毎度ありがとうございます」

決済をカードで済ませ、《NEXUS》の制服を着た燈はタクシーから降りて記念館前に立つ。
そんな彼を待ち受けていたのか、入り口から出て来た糸目の男性は彼に向けて手を差し出し、ニコリと優しそうな雰囲気の微笑を浮かべた。

「実際に会うのは今日が初めてだけど、久しぶりだね、燈君。話は総二郎から聞いているよ」
「話が早くて助かります。初めまして、城戸博士」

燈は差し出された城戸の手を握り返し、二人は互いに握手と挨拶を交わす。

「そうそう燈君。君に会って欲しい人がいるんだ」
「会って欲しい人?俺にですか?」
「ああ、付いて来てくれ」

握手を交わした城戸は踵を返し、記念館の裏口……業務員入り口の方から中に入って行き、燈は何も言わずに彼の後ろを着いて行く。
そしてしばらく歩いた二人は、一枚の扉の前にやって来た。

「ささ、入って入って」
「ちょ、ちょっと急かさないで下さいよ」

城戸の早く入るよう燈の背中を押し、彼は慌てながら扉を開けて室内に入る。その絢爛豪華な内装に、燈は驚嘆の声を漏らした。

「おぉ……」
「久城君、この子が例の子だよ」

そして、いつのまにか隣にいた城戸が革張りの椅子に声をかけると、長身痩躯の青年が立ち上がり、刃物のように鋭い目付きで問いかける。

「お前が、常盤燈であってるな?」
「は、はい!」

ドスの効いた声に燈は身を震わせ、少し上ずった声で答える。すると青年は彼の隣を横切り、なんの感情も感じさせない声色で彼に告げた。

「さっさと支度しろ、仕事だ」
「!?」

なんの説明もなく始まった初任務に、燈は幸先思いやられそんな予感を感じた。

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10 :迅
2020/08/04(火) 07:19:40

第2話(承ノ前)

ー宮城県角田市・ある住宅ー

「烏丸警部!」
「よせ、そんなガラじゃない」

年若い鑑識が敬礼すると、巌のようにゴツい貌を貼り付けた中年の警部はぼやく。

「また、例の事件か……」

警部ーーー烏丸秀俊《からすまひでとし》は凄惨な事件現場に目線を映し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
こう言うのも不謹慎だが、無惨に刺し殺された遺体が現場に残っていたりする方が、『人の力で行える範囲の』事件なのだと納得出来る。
『人の力で行える範囲』の事件だから、だ。

「(コイツは……人の範疇を明らかに超えてる)」

ここを含める数件の現場に残っていたのは、刺殺または絞殺された分かり易い死体ではなく、壁に叩きつけられた人型のしたシミのような『何か』。
鑑識はメモ帳を見ながら、険しい表情の秀俊に被害者の情報や当時の状況などの説明を始める。

「ガイシャは三好和也《みよしかずや》。23歳フリーター。近隣住民の話によると、今までのガイシャとまったく同じですね」
「夜中に大きな破裂音……か」
「はい」
「これで何軒目だ?」
「これで……10軒目ですね」
「一体、どう言う殺し方をすればこうなんだ……」

話を書き終えた秀俊は、再び壁に貼り付けられた人型のシミに視線を移し、小さく呟いた刹那ーーー

『あんた達誰なんだ!?ここは俺達警察が……』
『退いてくれないか』
『あ、ちょっと!』

外で揉み合っているのか、鑑識の一人と落ち着いた声の持ち主が何やら言い争いをしていた。
そして、落ち着いた声が鑑識の隣を抜けたかと思いきや、被害者宅の扉が開き、その中にメガネをかけた青年と二枚の黒服の男が入って来た。
これには流石の烏丸も嫌悪の表情を浮かべ、年若い鑑識がメガネの青年に向かって怒鳴りつける。

「な、何なんすかあんた達は!?」
「現時刻を持ちました、この一連の連続殺人事件の捜査は、我々の管轄となりましたので」

青年の答えに「はぁ!?」と叫ぶ鑑識。
しかし、状況を把握した烏丸は青年に問いかける。

「しかしアンタ、どこの所属だ?」
「《NEXUS》所属、久城と申す者です」

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11 :迅
2020/08/04(火) 15:50:14

第2話(承ノ後)

『犯人は逃走後、あちらのコンビニ前にて車を乗り捨て、そのまま店員一名を人質にーーー』

杜王町のコンビニ前にて、複数の警官が中に立て籠もる逃亡犯を取り囲んでいたが、中への突入を躊躇っていた。何故か?人質を取っているからだ。
犯人は逃げ遅れた女性店員を人質に取り、ナイフの切っ先の喉元に突き立てようとしていた。

「刑事、いつ突入を?」
「いや、まだ待機だ(……あの野郎、人質なんざこすい真似を……!)」

年若い警官が刑事に耳打ちし、刑事はいつまで経っても突入の時が来ない事に、思わず舌打ちした。
が、『キンッ』とステルス機のように静かな飛翔音に報道陣は音の方向へとカメラを向ける。
そして、その姿を見たリポーターは叫んだ。

『ご覧下さい!例の人物が現れました!』

けたたましい破砕音と共に、新型装甲服《メビウススーツ》を纏った燈が犯人が乗り捨てたと思われる車のボンネットに着地。車から飛び降り、入り口までゆっくりと歩を進める。
只ならぬ恐怖を感じたのか、逃亡犯は人質に取った女性にナイフを突きつけ、焦燥を露わに叫んだ。

「何なんだテメーは!?い、一歩でも踏み込んでみろ!近づいたら……コ、コイツをーーー」

しかし常盤燈。犯人の怒号など微動だにせず、ゆったりした動作で腕を交差《クロス》し、両腕に装備された柑子色に煌めく格闘兵装《メビュームブレード》を展開。
犯人に睨みを効かせると、怖気付いた犯人は尻餅をつき、その拍子にナイフを手放した。

「今だ!突入ッ!」

そのチャンスを逃すはずもなく、手放した瞬間を見計らった刑事は警官隊に合図を出し、突入した三名のうち二名の警官が犯人を捕縛、残りの一人が人質に取られていた女性を救い出した。
その手際の良さに、燈は心底感心する。

「(さすが警察、異星人相手じゃなきゃ遅れを取ることはそうそうないよな)」
「あ、あの!」

彼が心の内で賞賛を送り、その場から離れようとジャンプしかけた瞬間、後ろから声をかけられる。
後ろに振り向くと、人質に取られていた女性が、頬を赤らめながら燈に深々とお辞儀をした。

「助けて頂き、ありがとうございました!」
「礼は、貴方を助けてくれた警察の方に」

そう告げた燈は人間離れした身体能力で跳躍、メビュームブレードと肩部に搭載された推進器を使用して、現場から離脱していった。
闇夜に煌めく柑子色の光。報道陣のカメラは、飛び去る彼の軌跡をしっかりと捉えていた。

[返信][編集]

12 :迅
2020/08/10(月) 08:34:07

「あー疲れたー、今日も働いた働いた」
「帰ったか、イユ」
「ただいま、パパ。結構早いね、早退?」
「バカ言え、早めに終わっただけだよ」

時は遡る事数分前。
パタパタとリビングにやって来た少女は、バッグをソファに投げ捨てながらキッチンに直行し、冷蔵庫から取り出したお茶をラッパ飲みする。

「コップに入れて飲め。いつも言ってるだろ」
「も〜、分かってるってば」

秀俊がそう言うと、少女はお茶を冷蔵庫の中に入れて自作のおつまみを食べる彼の隣に座り、テレビの方に目線を向ける。
テレビの画面には、リポーターの声と共に装甲服を纏った男がボンネットを凹ませながら着地し、コンビニの入り口へと歩を進める映像が映し出されていた。

『な、なんだテメーは!?』
『……』
『な、何とか言えやコラァ!』

テレビの中の彼は、逃亡犯の脅しなど微動だにせずに腕部の武器を展開。大勢の野次馬が戦慄するが、警察官である秀俊には分かる。

「(あれは……随分と凝った『威嚇』だな)」

本来、攻撃には殺意や悪意と言った負の感情が芽生えるものだが、彼の動作にはそれらの感情が全く感じ取ることが出来ない。
『いかに最低限の動きで制圧出来るか』が目的だろうが、犯人を脅すには十分だった。

『ヒィッ!?』

逃亡犯は短い悲鳴を上げ、尻餅をつくと同時にナイフを手放した。しかし、その隙を警察が見逃すはずも無くーーー

『突入ーーー!』

3人の警官隊が突入し、1人が人質の奪還、そして残りの2人が逃亡犯を瞬く間に制圧した。
そしてこの事件を機に、いつのまにか現場から立ち去っていた装甲服の青年は、宮城県内からはこの名で呼ばれる事となる。

『|MÖBIUS《ヒーロー》』

と。

次回
「迫撃」

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