貴族のお嬢さまたちの噂話は馬に翼が生えたように刺激的!
これは彼女から教えてもらったことだけど、あなたには聞かせられないなんて、そんな言い方は逆効果だよ。僕が何を見たいかって、色とりどりの花が集まって笑いさざめく光景なんかじゃない。あることないこと、僕の噂話に、困ったように微笑む彼女のこと。
階段の上のキスは、ふたりの約束で、あの男への牽制で…ほら、そんなふうに理由なんて簡単に作れるさ。
でも、もっともらしい理由をつくることが面倒な時はなんて言えばいいんだろう。…瞬きをするたびに音のしそうなまつ毛と瞼がかわいいから?長い髪を背中にこぼれさせて、顎を上向ける仕草が好きだから、とか。鼻から抜ける吐息と、僕を信じきって潤んだ瞳がたまらないから。
……なんだ、いくらでも出てくるじゃないか。何も考えてない時の方が舌が回るなんて、どうかしてるな。
ああ、マイレディ!どう口の中で転がしたらそんなふうにキャンディのような丸さになるんだ?たぶん僕には永遠に分からない謎だね。僕の「くそやろう」を真似して楽しそうに笑う顔が可愛くて、感動すら覚えたよ。そう、そんなふうにも…笑うのかって。
この邸の中に、愛されているものがひとつでもあるのかなあ。
僕に教養はないけど、廊下に飾られた絵や棚に詰め込まれた本は、まあいいものなんだろう。花瓶の花も、枯れる前に新しいものに変わる。邸に一人きりのメイドは多分あのクソ野郎と「仲良し」だ。けど、誰からもほんとうには愛されない。
淑女らしく僕の腕を取り、普通の少女のようにやきもちを妬いて、僕の肩に頭を寄せて甘える、この邸でただひとり、彼女以外はね。
「…駄目かしら、そんなんじゃ。みだりに嫉妬だなんて。わたしとあなたの間には、不要なもの……?」
でも、嬉しいよなんて言えるはずがなかった。そんな普通の、平凡な、まだ若草の恋にはにかんでいる少年のような気持ちを、この僕が抱いていいものか?
言葉を間違えたのは彼女じゃない、僕の方だ。なのに、泣いて許してもらいたがる子供のような、そうでなきゃ世界が終わってしまうというくらいの激情が、あまりにもいじらしくて……、…やっぱり嬉しかったんだ。
朝露をふくんだ白い花のような声だと思った。自分がその一滴を受け止める緑の葉になったような、そんな甘い響きの「おはよう」だった。ベッドの上じゃないのが、どうしても不思議なくらいの。
「いつか、あなたに……全ての扉を開かれてしまうような、そんな気がしていましたの…。」
そう弱々しく震える小さな唇が好きだよ。涙に濡らした目や、縋りついてくる指、引き裂かれそうな白い喉。全てがとてもあわれで見る者の同情を誘うのに、どこかぞっとするほど美しい。僕がこんなにも効率の悪すぎるカードを並べているのは、それが欲しくて欲しくてたまらないからさ。
臆病で、虚栄的で、なのに欲深くて何ひとつ諦められない男だから。
僕たちはひとつ。その魔法の呪文は解かせない。どちらかの息が止まる、その日までは。
まだ試したことはないけど、たとえば海辺に転がる貝を拾ったとして、僕がそれを開いたらかなりの確率で真珠が転がり出てくるんじゃないかな。
この街はいつだって誰かが即興の詩を叫び、誰かがワインを片手に歌い出す、黄金の貝だ。それがこれまで彼女という真珠を閉じ込めていてくれたおかげで、幸運にもこの僕がそれを手に入れられる。ありがとう!そしてお疲れ様。さよならを言う前に、彼らに感謝を伝えられる時がくればいいけど。