「──む、無理かしら…?」
部屋の片隅にある小さなドレッサーの前、濡れた僕の髪を優しく拭いながら、夢を語る少女のような声がふと揺れた。
貴族の戯れじゃない、彼女はどこまでも本気だ。「いざとなったらわたしも働ける」と、あれこれと話す声があまりにもまっすぐだったから、君なら何だってできるよと無責任に言いそうになったけど。無理なことなんてないように、僕が傍で支えたいって……そう思ったのは、やっぱり本当だ。
これから先、あの屋敷を、高貴な苗字を彼女がほんとうに捨てることになっても、僕だけはしぶとく傍に残るつもりさ。
内職の例え話をしていた時、ふと思ったことがひとつある。裁縫……できる、のか?聞くべきか、聞かざるべきか。いや、いや!いつか明かされるその日を楽しみにしていよう。
いくら裸を見せ合ったからって、そのままの姿で歩き回れるほど恥は捨ててない。僕は召使いを前にした王様じゃなく、理性ある恋人だからね。
でも、さりげなく胸元を隠して頬を染める姿に、自分の身体のことは頭からすっかり抜け落ちてしまっていた。
恥じらいながらも大人しく僕に拭われる、柔らかくて透き通るように白い肌。この先どんなに荒廃した光景を見ても、かけがえのないものとして、きっとあの姿が目の奥に浮かんでくるんだろうな。
「ふふ…っ、お揃いだわ。かわいい……!」
白いバスローブが僕たちの初めてのお揃いだ。子供っぽいかもと思って黙っていたのに、迷わず口にして嬉しそうに笑うんだから……あーあ、そういうところにはまだまだ勝てないみたいだ。
サイズの合わないそれは彼女の手をほとんど隠してしまって、ちらりと覗いた指先が、いつもより少しだけ小さく見えた気がした。