百の賛辞より、たった一人の褒め言葉が欲しい。僕がどんなに格好悪くても、誰にも見せられないような情けない顔をしていても、「あなたはわたしにとって最高の人」と微笑んで、優しくキスをして欲しい。
熱くてたまらない頬を撫でられた瞬間に、そのことがはっきりと分かった。
僕の顔は彼女にどう見えていたんだろう?真珠のような目は僕だけを映して輝いていたのに、自分がどんな表情をしていたかは分からずじまいだった。でもそれでいい。彼女がいつも僕を見つめているのなら、それでいいんだよ。
「わたし、怒ってるわ……本気よ、とても怒ってるの…。」
先に声は掛けたと一応弁解はしておくよ!でも、僕が強くしたシャワーが彼女の顔を打ったのは紛れもない事実。思わず笑っちゃったのもね。いやあ、ぽかんとした顔がかわいくってさ。
無理に感情を抑えた声からも、時々笑うように肩の震える後ろ姿からも、全くと言っていいほど怒気が感じられなかった。子どもですら騙せないお芝居だ。そのお芝居に乗って、何でも叶えてあげたい気持ちになった。…そう、「初恋のお話」以外なら、何だって。
君と出会うまで、僕は恋を知らなかった。初めての恋は君だよ。……そんなこと、そう簡単に言えるか。こういう時、男はプライドの高い子供で、女性の方がずっと大人なのかも。
「わたしの初めての恋で、そして最後の恋なの。」と彼女が囁かなければ、僕の秘密は…たぶん、秘密のままだった。
不思議と彼女を『世間知らずのお嬢さま』と思わないのは、僕の知らないことをたくさん知っているからじゃないかな?詩や童話、ピアノの弾き方。それから、石鹸の香りも。
彼女曰く、それはキャラウェイの香りらしい。召使いが育てていたハーブと同じ香り。いつの話かも知らないのに、小さな女の子が「これはなんというの?」と首を傾げた姿が思い浮かんだ。思わぬ場所で古い写真を拾った時のような嬉しさだよ。
円柱のシャワーカーテンの中は、二人が入るには窮屈で、まるで冒険の中で見つけた秘密の場所のようだった。
僕の身体を任せっきりにしたのも、もちろん彼女以外は誰も見ていないから、なんだけど。なんだか、ちょっと……全てを任せすぎて、お腹を見せて丸洗いされる犬みたい…じゃなかったかい?