「だって…あなたが、幻滅なさるかもしれないでしょう…?」
なんてかわいいことを言うんだろう!どんな姿を見たって幻滅するわけがないのに、要らない心配をして、僕の目を塞ぐ。抱き寄せられたのは思いがけない幸運だったけどね。
胸元から顔を上げた瞬間、全く関係のないことが頭を過ぎった。この形のいい眉が、今みたいに力をなくしたり、嬉しそうに跳ね上がったりするのが好きだなぁって。ひと目見た彼女の首筋に匂うような色気が走って…何だか、くらくらしちゃったんだ。
けだるい身体からいつまでも熱が引かない。首筋に埋まる顔や、絡められた脚が動くたび、骨が軋むくらいにきつく抱きしめたかった。
僕が、嵐の中に連れて行きたかった。彼女もそれを求めていた。
わなないて、キスをねだる唇の奥にもその小さな嵐があった。よろこびに満たされていくのが分かったよ。幸せで、夢中だった。腕の中で熱くやわらかく息づくものに、ただ埋もれていく気持ち良さ。火のない部屋で汗が滲むほどの、むせ返るような熱に。
約束や愛の言葉だけじゃ足りないよ。まだまだ、足りなかったんだ。心の底から、身体の奥深いところから、「あなたのもの」だって理解したかい?
さあ、いよいよ格好がつかなくなってきたぞ。もっとご機嫌を取ってくれ!なんて顔をするんじゃ、もうまるきり子供だ。
何度も何度も懸命にキスをする唇に、胸の奥がくすぐったかった。そうされたくて顔を顰めたんじゃない。ただ、咄嗟に気恥ずかしさを誤魔化しただけだ。…我ながらおかしかったよ。彼女が慌てて抱きついてきただけで、あっさり唇が緩んでしまいそうでさ。
白い肌の上で緩く波打つ髪が、身体の線に沿って流れていた。やわらかい、優しい丸みのある肩や胸を頼りなく包んで、それがあまりに綺麗で息を呑んだんだ。
犯しがたい、なのにいっそ犯し尽くしてしまいたい。感情が大きく渦巻いて、心臓が破れそうだ。