オリオン座流星群。
今日あいつは麦わら屋の世話があるとかでサニー号に遅くまて戻っていて、あいつが戻ってくる間ベポと話をしているとかなり星が明るく見える海域にはいっているだとか。それも期間で言えば流星群、…加えて今日が極大だと。
しかしあまりの寒さに星を見るには少し億劫で。
それでもおれの元に戻ってきたあいつが一緒に見たそうにするものだからおれも素直に甲板に出ることにした。
結果は、見てよかった。
あいつと同じ空を見上げる喜び、共に流れる星を見つけられた喜び。ほかに替えようのない幸せだ。
流星群のことを教えたのもおれだし、心のどこかであわよくばと考えていたのも事実だが……それをあいつも楽しんでくれたとなると………幸せすぎて怖いくらい。
世話焼きなあいつは花を干すのも好きらしい。
生花を貰っても邪魔だと言う男も多いだろうと言うと、あいつは心底分からないと言った顔で「栞だって作れるし、干せば長く持つのに」と言った。本当にそういう着眼点が好きだと思うし、おれの詰んだままの本に花を挟んで栞を作ってる姿を想像するのも悪くない。
いつだったかあいつに好きな花を尋ねられたことがある。
花弁の多い大振りの花。名前はなぜか忘れられなくてそれをあいつに答えた。「おれも好き、その花」余計に愛着が湧いたのは言うまでもない。
あいつは問い返したおれにいくつか花の名前を出した。
女に教えてもらった花の名前は忘れることがないだなんてよく言うが、あいつが好きだと言った花をおれは忘れないだろう。おれの部屋の詰まれた本の中から花弁の多い花も干して残せると見つけたあいつが見せた表情と一緒に。
のちへん「好きな食べ物の話、なすのゆきひょう」
「あんたのその考え方、あんたのことを好きで大切に思ってるおれ達に対して失礼だと思わないんすか?卑下するにも限度があるっすよ」
呆れ半分、本気の怒り半分、シャチがアルコールグラスを叩きつけた時に漏らした言葉。ペンギンも黙っちゃいたが、黙秘は肯定とはよく言ったものだと思う。
"おれなんか"みたいな人間はヒトに好かれるなんて烏滸がましい。ヒトに誇れるほど出来のいい人間ではなく、優しさも寛容さも持ち合わせていない。あるとすればヒトを不快にさせる頑固さと他人への興味の薄さ。…いや、他人じゃねェな。自分自身への頓着のなさだ。手に残るのは見かけばかりの強さと、独りで生きていける程度の毛が生えた心臓。中身は伽藍堂でブリキと呼ぶに相応しい。そんな人間が、愛であろうと友愛であろうと、ヒトに好かれるわけがない。
勘違いしちゃいけないのは、それをおれは悲観的に捉えてねェこと。事実として真っ当に受け取って、…それで、納得してる。別に辛いと思ったことはない。ただ、こんなおれにも愛を向けてくれる人間の気持ちはせめて大切にしたいと願ってる。
だからその考え方がおれを愛してくれてる人間をも否定しているなんて考えもしてなかった。
「ローは言葉をひとりにする。」
結局は"おれなんか"という言葉に対して紐づいてくるのはおれ自身だけではなく、おれを大切にしている人間もなんだとあいつやシャチたちに諭されて漸くわかった気がする。
まだ愛というものに対しての感覚は難しいし、シャチが言うように「あんたは経験しないと理解しない」というのは真理だと思うから、…あいつには申し訳ないが子犬の速度で歩くおれに付き合ってもらいたいと思う。
「雑草は燃やすことにしたから」
……本当にそういうところが好きだ。