スチールレイン
恋情の淡い初色
「お前のことが好きすぎて、毎日貪欲になって、満たされない」たぶんあいつが言いたかったのは単に惚気で。
ただ「満たされない」なんて一言がどうしても引っかかって死ぬほど落ち込んだ。おれのネガティブの賜物だな。クルーには絶対見せられねェ姿だ。
落ち込んだ、ってのはそんなことを言うあいつにではなく、「満たしてやれなかったおれ」に対する自己嫌悪だ。
でもあいつにそんな意図はそもそも全くなくて、おれが勝手に蹴躓いただけなんだが……。
愛おしいって気持ちが両手から零れ落ちて、流れ出るそれすら相手に届くまでに乾いちまう感覚が抜けない。
おれには愛情を真っ当に届けることが出来ないようで、同じ轍を何度踏めば気が済むのか。シャチはおれに「経験しないとアンタは理解しない」と言うが、経験したところでなんの身にもなっていないんだろう。
不幸せをあいつに与えることだけはしたくない。
懺悔なんだろうか。それはわからないけれど、……そうだな。もう二度と「おれじゃなくてもいい」なんて思わないようにすることだけが、せめてもの償いかもしれない。
期待に応えることが酷く苦手だ。
あいつではなくておれの話。
これも一種、自分の優先順位を下げていることが原因なんだと思う。そもそもおれに"期待"している人間なんてものがいるわけがないという潜在意識があるんだろう。おれなんかに期待しているやつがいるわけがないんだから、応える期待などはそもそも存在しない。
期待は目に見えないから、おれなんかが応える隙がないんだ。
取引なら出来るのに。言葉のない期待に応えられない。
ないものに応えることほど恐ろしいものはないから。
……ただ実際、おれは思った以上に愛されていて、おれになにかを"期待"してくれるやつもいるらしい。いや、"らしい"んじゃない、いるんだ。
おれが愛することも迷惑でもないし、その愛を期待してるやつ。
どうしてだろうな。
おれなんか、かもしれない。ずっと根底にあった考え方を否定せずに汲み取って解いて、隠したそれに気づいてくれるやつがいる。
あいつも、クルーも…面と向かってダメなやつだって笑ってくれる。
それがこんなにも心地いいものだって知らなかった。
ベビー5におれたちはネガティブで自己愛が低いらしいぞ。と教えてやったらあいつは「ポジティブになんかなれないからしょうがないでしょ」と言いのけていた。
やはりおれは人の巡り合わせには恵まれている方なのだろう。