期待に応えることが酷く苦手だ。
あいつではなくておれの話。
これも一種、自分の優先順位を下げていることが原因なんだと思う。そもそもおれに"期待"している人間なんてものがいるわけがないという潜在意識があるんだろう。おれなんかに期待しているやつがいるわけがないんだから、応える期待などはそもそも存在しない。
期待は目に見えないから、おれなんかが応える隙がないんだ。
取引なら出来るのに。言葉のない期待に応えられない。
ないものに応えることほど恐ろしいものはないから。
……ただ実際、おれは思った以上に愛されていて、おれになにかを"期待"してくれるやつもいるらしい。いや、"らしい"んじゃない、いるんだ。
おれが愛することも迷惑でもないし、その愛を期待してるやつ。
どうしてだろうな。
おれなんか、かもしれない。ずっと根底にあった考え方を否定せずに汲み取って解いて、隠したそれに気づいてくれるやつがいる。
あいつも、クルーも…面と向かってダメなやつだって笑ってくれる。
それがこんなにも心地いいものだって知らなかった。
ベビー5におれたちはネガティブで自己愛が低いらしいぞ。と教えてやったらあいつは「ポジティブになんかなれないからしょうがないでしょ」と言いのけていた。
やはりおれは人の巡り合わせには恵まれている方なのだろう。
オリオン座流星群。
今日あいつは麦わら屋の世話があるとかでサニー号に遅くまて戻っていて、あいつが戻ってくる間ベポと話をしているとかなり星が明るく見える海域にはいっているだとか。それも期間で言えば流星群、…加えて今日が極大だと。
しかしあまりの寒さに星を見るには少し億劫で。
それでもおれの元に戻ってきたあいつが一緒に見たそうにするものだからおれも素直に甲板に出ることにした。
結果は、見てよかった。
あいつと同じ空を見上げる喜び、共に流れる星を見つけられた喜び。ほかに替えようのない幸せだ。
流星群のことを教えたのもおれだし、心のどこかであわよくばと考えていたのも事実だが……それをあいつも楽しんでくれたとなると………幸せすぎて怖いくらい。
世話焼きなあいつは花を干すのも好きらしい。
生花を貰っても邪魔だと言う男も多いだろうと言うと、あいつは心底分からないと言った顔で「栞だって作れるし、干せば長く持つのに」と言った。本当にそういう着眼点が好きだと思うし、おれの詰んだままの本に花を挟んで栞を作ってる姿を想像するのも悪くない。
いつだったかあいつに好きな花を尋ねられたことがある。
花弁の多い大振りの花。名前はなぜか忘れられなくてそれをあいつに答えた。「おれも好き、その花」余計に愛着が湧いたのは言うまでもない。
あいつは問い返したおれにいくつか花の名前を出した。
女に教えてもらった花の名前は忘れることがないだなんてよく言うが、あいつが好きだと言った花をおれは忘れないだろう。おれの部屋の詰まれた本の中から花弁の多い花も干して残せると見つけたあいつが見せた表情と一緒に。