・星送り
部活から帰ってきたあいつに願い星を渡す。今年のスターゲイザーは僕じゃないから単純にあいつの分ももらってきただけで、将来の夢についての願い事は前にしたから今年はどうしよう?って悩んでいる間にあいつは決めているから驚く。迷ってたんじゃなかったのか。
こういうのは一つしか願いを込められないってのも悩む原因と思っていて、だって些細なことに願い星を光らせるのはなんだか勿体無い。そんなことを話していたら、「逆に言えば毎年願えるんだし、小さいことでもいーんじゃね?」ってあいつが言う。言われてみれば一生に一度の願いじゃないんだよな。
「デュースが作ったホットミルクが飲めますように」。あいつが星を光らせた願いごとは本当に小さいことで、なんなら僕が今すぐにでも叶えられることで正直「それでいいのか?」って感じだった。星に願ったことを僕が叶えるってことがどうやらあいつにとっては最高らしい。ならなるべく早く叶えよう!って気持ちでいたんだが……結局叶えられる前に真夏になっちまってホットドリンクなんてとてもじゃないが飲めやしないな。でも作ろうか?って聞いても「離れたくない」って言ってキッチンに行かせてくれなかったのはあいつなんだから、それで文句はつけて来ないだろうと思っている。また寒くなった時に叶えられたらいい。
・消失マジック
帰る時すごく月が綺麗だった、ってあいつが言っていたから寝起きに窓から月を見た。お手をどうぞ?って手を差し出してくるあいつの手を取って、たった十数歩のエスコートを受ける。あいつは時々こういう絵本か?ってことをしてくることがあって、それが様になるから少し笑うし困る。なんだかこういうのでカッコいいと思うのは、あいつに負けた気分になる。それが悔しい。
その日は満月の一日前で、それでもあいつの言っていた通り月が綺麗だったから「綺麗だな」と口にした。そうしたら突然頬をくっつけてきて、僕の前に見える月をあいつが手で隠して言う。「見てて」。月を握り込むようにした手がゆっくり、ずれていく。当然なんだが月は空に光ったままで、「っあ〜〜、なくなんないか。」ってまるで失敗したみたいに言うから笑ってしまった。魔法使えるしいけると思った、みたいなことをあいつは言っていたが『世界から月を消せる魔法』がもしあるならそれは禁術だと思う。でも手振りとかが魔法とかいうよりマジックのそれだったから、マジで消えるんじゃないかと思ったって正直に言ったら「兄貴なら月も盗めたりして」と答えられる。マジか。すごいなお前のお兄さん。
「でもまあ、」
そこでずっと握りっぱなしだった手が僕に向けて開かれる。小さなひまわりの花がそこには咲いていて、それ越しにあいつがニッと笑うのが見えた。「星ぐらいは盗んだかもね。」
……やられた。