・花見
『お土産買ってくるから』って、メッセージが飛んできた肌寒い日の夜にあいつがサクラシロップのカフェオレを二人分買ってきてくれた。季節限定のものをわざわざ選んでくれたのは、多分花見の誘いに体調不良のせいで「行く」って即答出来なかったからだ。
見慣れた紙袋を受け取った途端、コートのポケットに手を突っ込むあいつを見てそんなに外は冷え込んでいるのかとゾッとして……なら早く温めないとと思ってチルドカップを差し出したら、あいつがにんまり笑う。あ、って思った。
その瞬間ポケットから飛び出た両手が、僕の頭上にたくさんの桜の花びらを降らせる。魔法で少しだけゆっくりに散る花びらは本物で、後で聞いたら綺麗なものを拾ったり空中で丁寧にキャッチしたりして集めてくれていたらしい。カフェオレはブラフで、真のお土産はこっちだって高らかにあいつが言うから、すっかりショーの中にいるような気分の中で……、……。え。タンマ、キスをした、って書くのが異様に恥ずい。なんだこれ。
マジックだってあの時は興奮してしまっていたが、よくよく考えたらサプライズの方が近かったかもしれない。どっちでも興奮できるな。めちゃくちゃ綺麗だったんだ!
カフェオレを飲みながら少しだけ花見をして、二人で眠った。起きたらお互いのスウェットやらパジャマやら髪の毛に花びらがくっついちまっていたのがちょっと面白かった。
肌寒い中で花びらを両ポケットいっぱいになるまで、一つ一つ集めるあいつのことを想像した。右手は冷えてしまってたかもしれないし、短時間でできることじゃないと思う。
……なんだが胸がいっぱいになった。
ノートに書きそびれたことがたくさんある。
ウィンターホリデーに寮に残ることに決めたらクローバー先輩が用意してくれたクッキーの詰め合わせとガレットなんとかを食べたこととか。僕に見せるためにバイトでヘトヘトだっただろうに夜明けの写真を撮ってくれていたこととか。ケガしてる風にして廊下で堂々あいつをおぶってくっつきながら歩いてやったり。対戦ゲームで白熱したり。あとあれだ。鍋で好きな具トップ1と2が被っていて、絶対鍋したら僕ら取り合いになるな……って言うとこまで被ったこともあったな。
もう書くには時効になっちまうだろうか?