今日のデートもすごく楽しかった。
デートの前には着せかえごっこをして、いつもとはちがうデートコースを通ってみたり、手をひくのはどっちだって遊びをしてみたり。
エダと一緒にいられる時間はしあわせにみちてる。それはいつだってそうだけれど、ゲームのあと、きずをおった俺の体を消毒しながら、泣きそうな目をした顔にすこしこうふんしてしまう。彼女のほうがいたそうで、だきしめながら「エダがきずつくのはいやだから」っていうと、決まって「私も、あなたが傷つくのは嫌よ」ってキスをしてくれる。そのキスだけで、いままでの痛かったことも、いやなことも、ぜんぶ頭から消えてなくなってしまうのに。
それでも、きっとエダは首をたてにはふらないんだろう。俺にとって彼女がたいせつなひとであるように、エダにとっての俺もたいせつなそんざいだから。俺は忘れないよ。エダが、それを忘れないでいてくれるように。
きみのそんなところも、すごく大好きだ。
いつからってラインが、ほかの人間にはあるんだろうか。
ふと、そんなことを考えた。彼女以外のやつらに興味なんてない。ただ、だとしたら、いつ、どんなふうに、そうだと決めるんだろう。本にはそれらしいことが書いてあったけど、俺にはそのちがいがよくわからなかった。読み書き、前より上手になったってエダにほめてもらったのに、むずかしい言葉がおおくて、うまく読みとれなかったのも事実だ。いい。しょせんは、彼女のいない、死ぬほどたいくつな時間をやりすごすための手段でしかないから。
なんだったっけ?そうだ。愛情にはしゅるいがあるんだってはなしだ。俺にはエダしかいないから、しゅるいのはなしはよくわからない。愛情をぶんさんしたら、わたす好きがへってしまうのに、どうしてたくさんの好きを持つんだろう。こころから愛しあっていれば、ほかになにもいらないってことを知らないんだ。「かわいそうな人間なのよ」、エダならきっとそう言う。
好きも、大好きも、そのほかの言葉であっても、彼女に愛情をつたえる方法でしかない。わかりやすい言葉っていうだけで、そこに差なんてないはずなのに、どうしてだろう。よくよく思い返すと、俺はエダにそれを伝えたことがない気がする。いつも、気持ちがたかぶったときは、たくさん話をする。つたえきれないありったけの好きを、ゆきみたいに積もらせて、だきあって眠る。
伝えたら、よろこんでくれるだろうか。あの、女神みたいな顔で、笑いかけてくれるだろうか。でも、このページを読んだエダの待ち通しそうな顔を見るのも、きっとしあわせに違いないって思ったら、なんだかもったいない気もする。
ほんとうに、俺はしあわせそうに笑うエダの顔が好きなんだなぁ。うん、好きだ。大好き。
けっきょく、言っちゃった。
ほんとうは昨日からうずうずしてたの、知らないでしょう。エダの顔を見たらがまんなんてできなくて、気づいたら口にしてた。
言葉に差なんてないけど、でも、彼女のしあわせな顔が見られて、俺もすごくしあわせだった。このさきもずっと、きみのことが大好きだよ。エダ。
俺だけにやさしくて、いつまでも大切に思ってくれるきみが大好きだよ。エダ、心配かけてごめんねって言ったら、謝らないのってキスされた。大好き。
何度でも、毎日だってきみに恋してるよ。出会ったころからずっと。エダは運命のひとなんだって、あの日わかったから。
エダはいつかの本で読んだお姫さまなのかもしれない。
だけどキスでは起きないから、あの本はうそつきだ。俺はそのかわり、彼女がねむっているあいだじゅう寝顔をながめている。小さなみじろぎのあと、ゆっくりと形作られるやわらかなほほえみは、きっとまだ夢の中の俺に笑いかけている。なんて、ずるい。自分自身、いやちがうな。夢のまぼろしに嫉妬する。彼女の気をひいてしまう、今ここにいる俺以外の存在すべてがずるいと思えてしかたない。俺以外の名前をよんだとき、まるで全身の穴という穴に針を突きさされるような気分だった。全身の血がぬけてしまったように指先まで体がひえて、それから気づいたら彼女の胸の中だった。
エダは言う。俺のつめたい目が好きだって。俺はそれよりも、もっときみのことが好きだ。そう言うと彼女は、そんなことはないのだと、キスと愛のシャワーを与えてくれる。愛情は均等でなくてはいけないとも。声も、手のひらも、胸の感触も、身もこころもすべてがやわらかなものにつつまれるうちに、どろどろにとけていなくなってしまった。
彼女のなみだは、きっと宝石にちがいない。
うるんだ瞳はきらきらしていて、目元は赤くそまって、大きなつぶがこぼれ落ちるしゅんかんが、好きだ。そうっと手ですくって、大事に大事にしまっておけたらいいのに。
エダのなみだをネックレスにできたら、俺はそれをずっとつけておく。鎖はぜったいに切れない、がんじょうなものを用意して、どんなときもはなさないように。
もしも、俺の目がなくなってしまったら、ネックレスにしたそのきらきらひかる宝石を、まるでキャンディみたいになめて、まあるくして目の代わりにするんだ。俺の中に彼女のがいる。なんて、しあわせなことだろう。
まっさきに、けがの心配をしてくれるところも大好きなんだ。