まぶしさに目をさましたとき、おはようの形になるくちびる。おはようできてえらい、って頭をなでてくれるやさしい手のひら。ベッドから起きあがるときの白い、ふくらはぎ。服をえらぶときの、うで。寝まきをぬいだときの、背ぼね。着がえるときの、布がこすれるおと。行ってきますと、行ってらっしゃいの、キス。食事をするときにみえる、舌。たいき室の、つくえの下でにぎる指。治りょうのとき、俺をみつめる真けんなまなざし。俺をよぶ、とくべつな笛。おかえりなさいの、ハグ。シャワーをとめて、体からしたたる水てき。タオルをかぶせてくれるとき、香るいいにおい。おやすみのとき、ベッドにおちるやわらかい髪の毛。毛布のなかで、ぴたりとくっつく体温。長いまつ毛に、まあるい目。眠そうな、まぶた。ちいさな寝息。
ぜんぶ、俺のたからもの。
エダが、書いてくれてる!うれしい!大好きだよ、俺のおひめさまЪ
エダとは、Ъをかく遊びをしている。
どちらかがせんをかいて、どちらかがぬりつぶすって遊びだ。どんな色でかいてもいいし、どんな色をぬってもいい。かたほうがかいたら、交代して、ふたりでЪをかいていく。
毎日やってるうちに、Ъはたくさんになった。数えるのがたいへんだったから、いまЪがいくらあるかってべつの紙に残してた。……のに、もうすぐ4回目の1000っていうとき、その紙をうっかり手からすべらせて、だんろに落としてしまった。火の中でパチパチともえはじめたかとおもうと、すぐに消えていった。
すごく、かなしくて、かなしくて。おちこんだ。そんなとき、あたらしい紙にдЪって書いてくれるエダのこと、好きだなぁ、って感じるしゅん間なんだ。
そのあと、笑顔になってくれてよかった。って、ほほをつつみこんでくれるやわらかくて、やさしい手も好き。
チョコレートのはなしをしたら、エダといっしょにすることになった。
死ぬときは一緒に死んでね。
彼女が俺の目を見ていった。俺はエダのために生きているから、とうぜんだよ。そういうと、うれしそうに笑ってくれるところが、好きだ。
いつだったか、思い出せない。彼女以外のことはきおくがあいまいだ。たいき室に行くと、だれかが手紙をかいてた。きょうみなんてなかったけど、その日はエダもいなくて、たいくつだったから、なにを書いてるのかって聞いた気がする。こんやくしゃへの手紙らしかった。好きなひとなのに、どうしていっしょにいないの?ふしぎに思って問いかけると、愛しているから、いっしょにいられないんだって、そいつは話した。
なんて、うすっぺらい愛なんだろう。俺は、エダを好きだから、いっしょにいたいし、いっしょに生きていきたい。死ぬときもいっしょだ。死ぬときはいっしょに死んでって思っていてほしい。
そういえば、この間よんだ本に死体の絵がのってた。
ミイラ、っていうらしい。だきあったままの死体があるんだって。恋人かな、ふうふ、かな?死ぬときまで、だきあったままでいられたら、きっとすごくしあわせだね。エダ。
エダの目は、しおのあじがした。